メニュー閉じる

「丁寧な暮らし」って結局何なの? vol.4

丁寧な暮らし=”自分の世界”を守るための作戦会議

  • Facebook
  • Twitter

この連載は... 縁もゆかりもない飛騨古川に移住をし、「白石さんちはやばい!」とメディアが殺到するほどに田舎暮らしを満喫する白石さん。カンボジアで暮らし、アリゾナで木こりをし・・・と数々の”偏”歴を重ねてきた白石さんが、飛騨古川で暮らす理由とは・・・?「丁寧な暮らし」と聞くとイラっとするあなたに読んでほしい、秘境夫婦を題材にしたエッセイ。

丁寧な暮らし

▶︎ vol.1 アリゾナの木こり、ノリで岐阜の秘境に移住
▶︎ vol.2 リノベの全てはYouTubeが解決する
▶︎ vol.3 家は”自分の世界を表現する”ためのカンバス

 

古川の「昔ながらの町並み」クルーズ

飛騨古川の旧市街の景色はとっても古い。南北に走る4つの通り沿いには、商家や酒蔵など明治期から残る建物がいくつも並ぶ。中でも瀬戸川に面した「白壁土蔵街」と、その西側にある「壱之町通り」には、江戸時代の雰囲気が残る。「ザ・昔ながらの日本の景色」って感じなのだが、高山に比べるとまだまだ観光地的じゃなく、いい感じに力が抜けている。

丁寧な暮らし

石造りの瀬戸川沿いを、右手に並ぶ土蔵群を見ながらブラブラ歩く。飛騨市は空き家の再生に力を入れている。人の手の入らなくなった家は朽ちてゆくため、町にとっても死活問題なのだ。そのため壱之町地区には、古い家や蔵を改装したショップやカフェがたくさん並ぶ。

白石さんの奥さんの実果さんが働くのも、そうしたうちのひとつである「壱之町珈琲店」だ。オーナーのこだわりの感じられる店内は、古い民家を改修したもの。今も古い蔵の扉や坪庭がそのまま残り、座敷ではゆったりとコーヒーや名物のカレーが味わえる。

丁寧な暮らし

丁寧な暮らし

この日は混んでいたため、系列店のイチノマチクラブへ。こちらも壱之町珈琲店と同様、古い民家の木のぬくもりが感じられる。手作りのリンゴジュースやジンジャエールなど、地域の果実を作った美味しいジュースやコーヒーが飲める。

丁寧な暮らし

白石夫妻

 

「形あるものはいつか壊れる」ことの幸せ

わたしがここに来てはじめて感じたのは、

「形あるものはいつか壊れる」ってことだ。

家や建物は、いつか壊れる。
でも、普段都会に暮らしている私は、それを忘れて生きている。
都会では、ビルも、公共施設も、「いつか壊れる」ことを前提にして建てられていない。みんな、そう思って使っていない。
永遠にあるものですよ、って顔して立っている。
でも、それは古川の深い緑の中に点々と散らばる木造の家家を見ていると、ひどく不自然に感じられる。

暮らしって壊れてゆくものだ。絶対ではない。
生きてるってことは、壊れるってことだ。老いるってことだ。朽ちるってことだ。

都会では、老いないし朽ちないものが最上級とされている。人間は老けないほうがいいし、家は壊れないほうがいいし、街は天井知らずに栄えているほうがいい。そう目指すことは、それはそれですばらしい。人間の技術の成果だ。
でも、そういう、上の方向に伸びてゆく技術だけでなくて、壊れることを加味した上で、それでも楽しんでゆく、内的な充実を深めてゆく、そのための技法みたいなもののほうが、今の私にはなんだか愛しく感じられる。

暮らしって壊れるからこそ愛しい、みたいな感覚があって、その感覚の輪郭をほのかに感じさせてもらえる場所に行くと、私の肉体の輪郭も、それに呼応して震える。

このあたりの家々を見ていると、家が生きている、って感じがするんだけど、それは壊れること、移り変わることを、家とか場所自体が素直に受け入れて、人々もそれに合わせて生きることを喜んでいるみたいだからだ。
そのことは白石さんの家だけじゃなく、家々を包み込む「古川」っていう土地丸ごとから感じ取れる。山や大地の息遣いみたいに。

丁寧な暮らし

 

丁寧な暮らし=「自分の世界」を守るための作戦会議

私はずっと、「丁寧な暮らし」って言葉に苦手意識を持っていた。
なんだか都会でインスタントに生きていることを責められているような気がしたし、白石夫妻の家を最初に見たときも「こんなの、私は絶対無理〜!」って思った。
その言葉の曖昧さにも腹が立ったし、結局言葉自体が消費のための道具に使われていて、ニット帽かぶってサードウェーブコーヒー片手にドヤ顔してるだてメガネの男(MacBook Air 使用、自由が丘か祐天寺在住)か、もしくは麻の服を着て丸い皮の靴を履いて(もちろんヒールはない)、木の板とかに手の込んだ自家製パンを乗っけて出してくれる化粧っ気のない黒髪の女性しか思い浮かばなくて(その人たちはたいていマガジンハウスの雑誌から抜け出たイメージでしかないんだけど)、そういう人たちになれない私は一体どうすれば「丁寧な暮らし」ができるのだろう、と半ばひがみ根性で思ってた。
「私の手作りの暮らしって、こんなに素敵なの!」って得意満面でInstaglamとかFacebookに写真を載せてる人たちのことも、半ば「ケッ」って思いながら見ていた。

けど今回、白石さんたちの家を訪ねてみて、自分にとっての「丁寧な暮らし」って一体なんなのか、なんとなくわかってきた。
それは別に、一見、丁寧っぽく見える家具や、手間のかかりそうなモノをわざわざ買うってことではない。
Kinfolkを読んで、ガーデニングして、野田琺瑯の容器にわざわざマルエツで買った298円のバターを移し替えて冷蔵庫に入れることとはまた別の次元の話だ。

そうではなく、暮らしの「朽ちる」「壊れる」部分を忌避せず、愛おしみながら、そこに費やす時間や手間暇を楽しみ慈しみながら、そこから自分たちもまた、生きる力をもらうことかもしれない。

そう、生きるための行動・所作全体が、自分たちの命をまた吹き返してくれるような、そんな生活のこと

そういう暮らしはきっと私たちの「自分の世界」を守ってくれる

「丁寧な暮らし」を計画することは、自分の世界を守るための作戦会議なんだ。
それは別に田舎じゃなくったって、都会の小さなマンションの中でだって、どこでだって実践可能だ。
そう思ったら、「丁寧な暮らし」ってそんなに悪いもんじゃないな、って思ったし、私もまた、東京での自分の暮らしに向き合ってみようかな、ってちょっとだけ思えた、今回の旅だった。

 

vol.5 では飛騨高山の秘境、神様が囲碁遊びをしていた渓谷や、飛騨から足を伸ばして郡上八幡の四日四晩徹夜で踊り続ける奇祭を訪ねます!こちらもチェックを!
▶︎ vol.5 美しい自然と伝統の町、飛騨古川の町探検

 

◆ 壱之町珈琲店 / イチノマチクラブ
岐阜県飛騨市古川町壱之町1-12
0577-73-7099
営業時間 10:00~17:00(L.O)
定休日:火曜日
Facebook: 壱之町珈琲店/ Ichinomachi Cafe
飛騨市公式観光サイト
: 飛騨牛カレーライス ~壱之町珈琲店~

関連ランキング:喫茶店 | 飛騨古川駅

今月の旅のMAP

4/5

前のページヘ
次のページヘ
                                        

この記事を書いた人

小野 美由紀

小野 美由紀  

作家。1985年東京生まれ。著書に絵本『ひかりのりゅう』『傷口から人生。~メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』『人生に疲れたらスペイン巡礼 飲み・食べ・歩く800キロの旅』がある。趣味はサーフィンと琉球空手。

ありきたりじゃない旅Guide

Wanderlustのアカウントをフォローして
連載を見逃さずに読もう!

facebook

twitter

instagram

TOPへ