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「丁寧な暮らし」って結局何なの? vol.3

家は”自分の世界を表現する”ためのカンバス

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この連載は... 縁もゆかりもない飛騨古川に移住をし、「白石さんちはやばい!」とメディアが殺到するほどに田舎暮らしを満喫する白石さん。カンボジアで暮らし、アリゾナで木こりをし・・・と数々の”偏”歴を重ねてきた白石さんが、飛騨古川で暮らす理由とは・・・?「丁寧な暮らし」と聞くとイラっとするあなたに読んでほしい、秘境夫婦を題材にしたエッセイ。

丁寧な暮らし

▶︎ vol.1 アリゾナの木こり、ノリで岐阜の秘境に移住
▶︎ vol.2 リノベの全てはYouTubeが解決する

「飛騨で中古の家を買うと、状況によっては100-200万くらいしかかからないんだよね(参考: 飛騨市住むとこネット)家を作って地域に溶け込むってすごく楽しいことだよ。もっとみんな、カジュアルに家を持ってもいいと思うんだよな」

丁寧な暮らし

そう語る白石さんはものすごくさわやかで、作っているものも素敵なんだけど、考えてみたら築70年の家を買って、動物の死骸が転がっているところからここまで素敵な家に仕上げるって、冷静に考えたら尋常じゃない。

はっきり言って狂気の沙汰だ。

でも、白石さんはそれを心の底から楽しそうにやっている。さわやかさの陰に隠れて分かりづらいけれど、狂人というのは静かにこうやって笑顔の下に狂気を隠し持っているものではないだろうか。

丁寧な暮らし

「幼少期から絵を描くのが好きだったんだけど、大学に入ってから、ジャズの演奏にのめりこんで。海外に移住してからはDIYに目覚めて……暮らしを自分で作る楽しさを知ったのはその時なんだよ」

こうして家作りに熱中しているのも、その流れなのかもしれない、と彼は言う。家を自分たちの手で修繕するのも、絵を描くのも、ジャズ・ベースでセッションするのも、彼の中では同じ「作る」という一つの軸の上にある行為なのだろう。

 

家は自分の世界を表現するカンバス

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私はずっと都会で生きているので、「家に手をかける」って感覚が、あんまりわからない。どちらかというと、今までの私の中の「家」は「手をかけてはいけないもの」むしろ「手をかけても無駄なもの」って感じがした。だって、ほら、ライフステージに従って、住む場所って変わるし。壁には基本、穴を開けちゃいけないし。音は出しちゃいけないし、いじったら、敷金取られるし。

一方、地方に移住して自分の家を手に入れた周りの友人たちは、ここぞとばかりに手間をかけているイメージがある。特に男の人。

男の人にとって、家は自分の世界を表現するためのカンバスなのかもしれない。

「まあ、飛騨の冬は極寒で、家に手を加えないと苦行の冬を過ごすことになるから、そうせざるを得ないっていうのもあるかもね。自然と共存するってことはさ、自然に抗ったり、同調したりして、日々暮らしを調整してゆくってことだから」

そう考えると、田舎の暮らしって、生活自体がその人の作品にならざるを得ないのかもしれない。自分の痕跡が、生活空間のあらゆるところに嫌でも付着してしまう。

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「家づくりは継続していくけれど、ゆくゆくはこの地域のことを伝えられる場をつくるのが夢。外国人観光客も多いから、彼らが飛騨の良さにじんわり浸りながら、ゆっくり滞在できる場をつくっていきたいんだ」

そうなのだ。昨日、夜の街を歩いていても思ったけど、飛騨高山はやたらに外国人旅行客が多い。ミシュランの旅行ガイドでは京都、奈良と並んで三つ星にランクされているし、平成26年の外国人観光客数は、過去最高の28万人。とりわけ個人旅行の多いヨーロッパ人に人気急上昇中の街だ。

「でも、日中は以外とどこに行ったらいいかわからないってお客さんが多いんだよね。みんな、昔ながらの日本の景色を求めて来るんだけどさ、町並みを楽しむ以外の楽しみ方が、まだまだ浸透していなくて。古川にまで来てくれたら、神様が昔、囲碁遊びをしていたって言われてる渓谷があったり、美しい里山が見られたり、昔の暮らしがほとんどそのまま残っている古い集落が見られたりして、楽しいんだけどね。そういう情報がまだまだ共有されていないから、それが伝わる場所にしたいんだよね」

絵を描いていた経験。アリゾナでの木こりの経験。サイクリングガイドの経験。白石さんを見ていると、今までやってきたことがすべてつながって、丸ごと全部が現在の働き形や暮らし方に活きているように思える。それは彼が、幼少期から続く「好き」をスライドさせて生きているから、に他ならないのかもしれない。

 

他人の立てる雑音から、自分の世界を守る

白石さんの家を見るうちに、ふと一人の画家のことが頭に浮かんだ。

ジョージア・オキーフ。

死ぬまで骨と花と風景画しか描かなかった、アメリカのポストモダニズムの始祖と言われる女性の画家だ。

丁寧な暮らし

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オキーフはN.Yでアーティストとして成功し、アメリカモダニズムを代表する有名画家の一人になる。写真家スティーグリッツとの結婚、絵に描いたような華やかな生活。

けれどその陰で、オキーフは神経を病んでしまい、老いてからは故郷のニュー・メキシコの荒野に自分のための家をつくり、92歳で死ぬまで一人で絵を描き続けた。

丁寧な暮らし

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彼女の家はとっても素敵で、壁も家具にも家の形にも家具にも、細部にまで彼女の好みが反映されていて、まさに「彼女の世界」ってかんじなのだ。オキーフは今流行りの「丁寧なくらし」、『kinfolk』とか『プレミアム』とかのライフスタイル誌が今、こぞってやっていることを、みーんな、30年も前から実践していた。

 

画家やアーティストが”自分の世界”を守るのは実はすごく難しい。

 

作品に対してやいのやいの言う人はたくさんいるし、こうした方が売れる、ああしたらいいよ、こんなんじゃダメだ、ってしたり顔で言ってくるクソうるさいオヤジや外野がゴマンといて、その中で自分の”好き”を貫くのはとても骨が折れる。せっかく自分らしい作品作りができている人でも、人の言うことに影響されてやめてしまうケースはとても多い。

神経を病んだ後のオキーフも、無遠慮に侵食してくる都会の雑音からキラキラした彼女の内面の世界を守るために、自分ひとりの家を必要としたのだろう。

それはたぶんアーティストだけじゃなくて、一般人の私たちが心地よい暮らしをするのにだって、きっと必要不可欠なものだ。

 

田舎で”自分の世界を守りながら暮らす”コツ

普段の暮らしの中で、私たちの周りには「女は何歳までに◯◯したほうがいい」とか、「子供は◯歳までに産んだほうがいい」とか、とにかくまあクソうるさい雑音がいーっぱいある。

女の人でなくたって、年収は◯万円がいいとか、子供は◯人もて、とか、ああしたほうがいい、だのこうしたほうがいい、だの、いろんな根拠のない雑音に生活の細部ががんじがらめにとらわれてゆく。

それを払いのけるのはなかなかに体力がいるから、いちいちを怠って生きてくうちに、だんだん、自分が大事にしたかったものの輪郭がぼやけてくる。

雑音って厄介だ。ただの雑音、それなのに、無意識のうちに自分の世界が少しずつ削りとられていく。そのうち、自分のやりたいことが一体なんだったのか、いつのまにか分かんなくなるのだ。

田舎のほうが人付き合いが多くてなかなか大変だ、ってイメージだったけど、ひょっとしたら、物理的に他人と距離がある田舎のほうが自分の世界を守りやすいんじゃないだろうか。

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「まあ、そうは言っても、結構大変なこともあるけどね。特に飛騨古川は豪雪地帯だから、孤立=死だったりする。雪下ろしなんかも一緒のタイミングでやることが多いんだけど、屋根から落ちて雪に埋もれた人を堀りに行ったりするし、隣近所との結びつきはものすごく重要だよ」と白石さん。

「ここでの暮らしってさあ、結構、ゆるくて素敵なところがあって、例えば町内の催事を、A案にするかB案にするかについて、まず、どちらにするかを決めるのを”決める”委員会を設置しましょう、ということで会議が終わるでしょ。それで次回の会議ではメンバーが決まるでしょ、で、次の会議では「決める方法」を決めて「投票にします」ってなったら、次の会議で投票して、やっとA案にします、って決まったりするんだよ。出しもの一つ決めるのにも2ヶ月くらいかかったりするんだよね。でも、それが非効率だからダメっていうんじゃなくて、それも町内の重要なコミュニケーションだったりするわけ。そういうスピードを求めないところも、田舎暮らしの魅力なんじゃないかなあ。東京にいるときには感じられないけど。あと若い女性が1人で移住してきたら間違いなく結婚は?って聞かれるね」

 

うう、私、500%無理。

 

「でもさ、例えば、初めて越してきた時に『この地域は◯◯党を応援しているから、よかったら毎月応援費っていうのを払ってね』って言われたんだけど、『僕はそういう政治に関することは自分でじっくり判断して決めたいです』って、すごく言葉を選んで丁寧に伝えて、理解してもらったりしたの」

地方で暮らしていると、○○費や○○募金という謎の項目で毎月の集金があることも多いそうだが、白石夫妻が移住してきた時には、区長さんたちが気を遣ってくれ、使途不明なものは事前に全部説明し、これは白石君は払わなくても大丈夫、こっちは大切な集落行事のだから理解してもらいたい、というように対処法を一緒に考えてくれたのだそうだ。

「そういう風に、コミュニケーションもちゃんと取りつつ、自分の守りたい部分に関しては線引きをしっかりしながらやっていくのがいいんじゃないかなあ。前例ないことばかりだから時間はかかってしまうけれど、今後移住してくる人のために、自分たちが前例をつくっておくのは大切だと思ってるんだ」

なるほどね。田舎で自分の世界を守りながら暮らすには、コミュニケーションを取る力以外に、流されない力も必要みたいだ。

「でもさ、例えば、この前遊びに来たフランス人が、朝、家の周りを散歩していた時、何言っているかわからないおばあちゃんがずっと話しかけてくれていた。それが嬉しかった、って言っててさ、そういう地域の人とのつながりの良さっていうのは、やっぱりあるよね。だからこそ、僕はここに住んでいるんだと思うよ」

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今月の旅のMAP

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この記事を書いた人

小野 美由紀

小野 美由紀  

作家。1985年東京生まれ。著書に絵本『ひかりのりゅう』『傷口から人生。~メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』『人生に疲れたらスペイン巡礼 飲み・食べ・歩く800キロの旅』がある。趣味はサーフィンと琉球空手。

ありきたりじゃない旅Guide

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