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「丁寧な暮らし」って結局何なの? vol.2

リノベの全てはYouTubeが解決する

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この連載は... 縁もゆかりもない飛騨古川に移住をし、「白石さんちはやばい!」とメディアが殺到するほどに田舎暮らしを満喫する白石さん。カンボジアで暮らし、アリゾナで木こりをし・・・と数々の”偏”歴を重ねてきた白石さんが、飛騨古川で暮らす理由とは・・・?「丁寧な暮らし」と聞くとイラっとするあなたに読んでほしい、秘境夫婦を題材にしたエッセイ。

丁寧な暮らし

▶︎ vol.1 アリゾナの木こり、ノリで岐阜の秘境に移住

 

「いいでしょう?壁も床も照明も、全部自分たちの手で作ったんだよ!」

家に入ってすぐ、ぱーんと広いキッチンと板の間が目に飛び込んでくる。

丁寧な暮らし

広がる木と土の匂い。正真正銘、「田舎の家」って感じだ。でも、ただ古いだけじゃない。丹念に塗り込められた土壁、新しく張り直された木の床、使い勝手を考え、丹念にデザインされた美しいキッチン……白石夫妻がこれまで修繕にかけてきた膨大な手間暇が、精霊のように隅々にまで宿っている。

居間に佇んでいるだけで、なんだか無言でもてなされているような気分になる、心地のいい空間だ。

丁寧な暮らし

特にこだわりが感じられるのは、キッチン含む一階のリビングスペースだ。イベントでよく人が集まるだけあり、開放感のある広々とした作りになっている。

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壁を壊したり、塗ったりという手直しの過程には、全国から遊びに来た白石さんたちの友人知人も数多く参加している。

彼らが宿泊する客間は、明治期の家具や、ミッドセンチュリーのデザインファーニチャーでまとめられている。全部、白石さんが古道具屋やアンティークショップで選び抜いたモノたちばかり。

それだけじゃない。天井から吊り下げられたランプ、白くて広いキッチン、光の差し込む窓、明治時代に作られた食器棚、帽子掛、椅子、ラック……細部まで、白石さん夫妻が時間をかけて集めたパーツや家具で飾られている。

ただ素敵な家具を集めただけでは生まれない「時間」の感じられる家だ。

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壁に飾られた和風のオーナメント……かと思ったら、実はこれ、”餅”。

「これは”花餅”って言って、この地方独特のもので、お正月に乾燥させた餅を枝にくっつけて置いてあとでそれを食べるんだけど、可愛いしインテリアになると思ってそのまま飾ってるんだ」

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「家の照明も手作りなんだよ。これは骨董市で部品買ってきてね、自分で作ったんだ。このランプは、タイの部品を取り寄せて作ったんだよ!」

そう言いながら嬉しそうに一つ一つの家具を指差して解説してくれる白石さん。この家にあるすべてのモノに対する愛着が、言葉からも表情からも、溢れかえっている。

 

 

現在は、白石夫妻の友人たちがひっきりなしに訪ねてくることもあり、この場所から新しい交流も生まれているそうだ。「今後10年かけて改修して、人が集まる場所にしようと思っている」と白石さんは言っているが、もうすでに立派な飛騨古川のコミュニティスペースだ。

 

 

丁寧な暮らし

白石さんの家は築70年の木造住宅だ。以前は持ち主のおばあさんが一人で住んでいたが、さすがに豪雪地帯の古川に独り住いは厳しいらしく、家を引き払って取り壊すことにした。

しかし、古民家は大きい家だと一軒潰すのに300万円以上かかるケースもある。「そんなにお金をかけて潰すぐらいなら、若い奴に受け継いでもらうほうがいいんじゃないか」と言ってくれた人がいて、幸いにも白石さんはあまりお金をかけずにこの家を手に入れたらしい。

ただし手に入れたばかりの頃は、この家は今とは似つかぬ姿をしていたそうだ。

「最初、この家に入った時にはさ、なかなか片付け甲斐がある状況だったんだよね。2階部分はほとんど使われてなくて、締め切っていたこともあってホコリやカビがすごくてさ。床下に動物の死骸が転がってたりしたんだ。それを3年間かけて手直ししたんだよ」

丁寧な暮らし

「台所の天井を壊して、壁をぶちぬいて、床を構造からやり直して…… そういうの、ぜんぶ、僕たち二人や、ここを訪ねてきた人たちの手でやったんだ」

ええ、難しそう。そう言うと白石さんは

「かんたん、簡単。やりかたは全部、 YouTubeで調べたら出てくるよー!

と朗らかに言い放つ。

「最初は、空間デザイナーの友達にイメージを伝えてスケッチを描いてもらい、それを高山にUターンした設計士さんや大工さんに見せて、アドバイスをもらいながらイメージを膨らませて、あとは個人のリノベーションblogやYouTubeを見ながら、どうやってつくっていけばいいか考えたんだ」

欲しいもののイメージはあるけれど、買うと高いし、作り方もわからない。そういう時にはとりあえずYouTubeさえ見れば、だいたい誰かが解説動画を上げてくれているらしい。

マジかぁ。リノベーションのハードル、ぐっと低くなったなあ……。

 

not リノベーション、but リバイタライズ

白石さんがこの家を作る際には「出てきた建材を再度使って息を吹き返したい」という気持ちが強くあったのだという。

「”リノベーション”って今、すごく流行っているけれど、僕がやりたいのは、どちらかというと”リバイタライズ”なんだよね。古いものに新しいものをくっつけるというよりは、古いものの良さをそのまま生かして現代の暮らしに合った形に変えていくっていうか。

大工さんに全部任せちゃえば、もちろん綺麗なものができるんだけど、どうしても、家を壊していく過程で使いたい素材や、ここはこうしたいっていう希望が出てくるからね。だから、設計士さんやデザイナーさんの力を借りつつ、デザインと施工は自分たちも一緒にやることにしたんだ」

 

捨てたくないものは捨てないで活用

 

リノベーションの過程で、白石さんは ”普通なら捨ててしまうような物の中に、活用できるものが沢山ある” ということを学んだという。

例えば、と言って白石さんが指差したのは、ストーブ奥の壁。

「ここはもともと土壁だったんだけど、新しくするために一旦、ぶちぬくでしょう。そうすると、壊した後に土が出る。普通は捨てちゃうんだけど、もったいないからどうしても使いたいと思ったんだよ。だから、大工さんに、どうにかして自分でやります!って言って、出た土を篩にかけて土と藁に分けて、練って塗って……もう一回土壁を作り直したんだ。練り方とか分からなかったけど、そういうのも全部、youtubeで調べたら出てきたよ」

確かにここだけ色合いが違って、なんだか何十年も受け継がれてきたような、土の温かみがある。

丁寧な暮らし

「最初にスケッチを描いてもらった空間デザイナーの友人からは『篩にかけて取り出した土に漆喰を混ぜて、塗るだけだとポロポロ落ちてきちゃうから更に砂を混ぜるといいよ!』とか、いろんな実践的なアドバイスをもらったんだよね。それを聞いてYouTubeで超調べたら、以外と超、載ってた!って感じなの。だからこの家の空間作りには、いろんな人の手と脳が混じってるんだ」

丁寧な暮らし

「この薪ストーブも人から譲ってもらったんだ。たぶん新品を買うと施工込みで100万円くらいするんだけど、ちょうどストーブを買い替えをする友達がいて、安く譲ってもらったんだよ。いいでしょ!」と白石さん。

彼の人からモノをもらう運はキョーレツに良さそうだ。というか、モノが少ない田舎だからこそ、あるモノで使えるモノは人に譲る、って感覚が強くあるのかもしれない。都会では、あげる人を探す手間よりも、お金をかけて引き取ってもらうか、捨てる方をついつい選んでしまう。

 

古いものを編集し直して、再び命を吹き込む。破壊した後に新しいものを加えるんじゃなくて、古いものを組み合わせて、新しい命を吹き込む。白石さんのやっていることはまるで、錬金術師みたいだ。

「家だけじゃなくて、この飛騨古川にも、もともと良いものがたくさんあるんだよ。古い蔵の町並みだとか、もちろん人を呼ぶには新しいカルチャーも必要だけど、町自体の価値あるものを、リバイタライズできたらいいなあって」

 

vol.3へ続く» 「好き」をスライドさせて生きる

 

丁寧な暮らし

▶︎ vol.3 家は”自分の世界を表現する”ためのカンバス

今月の旅のMAP

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この記事を書いた人

小野 美由紀

小野 美由紀  

作家。1985年東京生まれ。著書に絵本『ひかりのりゅう』『傷口から人生。~メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』『人生に疲れたらスペイン巡礼 飲み・食べ・歩く800キロの旅』がある。趣味はサーフィンと琉球空手。

ありきたりじゃない旅Guide

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