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さよなら、私のセクシュアリティ vol.2

ストリップはエロスの芸術 踊り子たちが輝ける所以は

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この連載は... 「女とは何か」等、自身のセクシュアリティに悩む筆者が、その葛藤を”成仏”させるために様々な場所や人を訪ねる旅をします。

広瀬奈々美

20歳のときに初めて、老舗ストリップ劇場である浅草ロック座に行った。
いつの頃からか自分の中の“女性性”に雁字搦めになっていた私は、踊り子たちの主体的な性の解放に救われ、その日から彼女たちを「女神」と呼ぶようになる。

▼前回までのあらすじはこちら▼
20歳の私と女神たち エンタメ系ストリップ劇場「浅草ロック座」に魅せられて

初めて浅草ロック座を訪れた日から7年ほどが経った最近、久しぶりに足を運んだが、ステージ上の彼女たちは相も変わらず女神だった。

しかし、眩すぎる公演を観ても尚、私の心には何か“しこり”のようなものが残る。その“しこり”とは、「女神たちの輝きを支えるものは何なのか」という疑問。そこに、何か大きなヒントが隠されているように思ったのだ。

後半の今回は、女神との対話を通じて、私自身の“女性性の葛藤”を旅する。

“剥き出しの美しさ”と“強さ”の理由

広瀬奈々美

どうぞ、と手で指し示された楽屋からは、女性たちの楽しそうな声が聞こえている。楽屋にお邪魔すると、「あ、どうぞどうぞ~」と可愛らしい声がして、1人の女性が招き入れてくれた。

「あ、もしかして今日写真撮りますか? こんな格好でごめんなさいね」とスリップ姿で出迎えてくれたのは、踊り子の広瀬奈々美さん。年下の私が言うのもおかしな話なのだが、可愛らしい印象の彼女。女神降臨の瞬間である。

……とは言ったものの、楽屋にいた女神は良い意味で“普通の”綺麗なお姉さんだった。緊張と安堵が同居するおかしな心持ちのまま、私はいきなり「素朴な質問なんですが、脱ぐのって勇気がいりますよね?」などと聞いてしまった。歩くときに右手と右足が一緒に出てしまう子どもくらいにぎこちない質問。インタビュアー失格だ、とうなだれながら、広瀬さんの顔を窺うと、彼女はあっけらかんとした笑顔でこう言った。

「最初はちょっとやってみようかなって思ったんです。ダメだったら辞めればいいや、くらいの感覚で」

ロック座

広瀬さんの“脱ぐ”デビューは27歳のとき。AV出演が最初の仕事だった。元々長いことレースクイーンやグラビアアイドルとして活躍していた彼女。その当時は、ちょうど「着エロ」から「ギリエロ」に移行していた時代だった。手や花で胸や下腹部を隠し、いかに“ギリギリ”まで攻められるかに重きを置いていた当時の撮影を経験していたため、「AVもできるんじゃないかな」という気持ちで始めてみたという。

でも、私が思うにAV女優しかりストリッパーしかり、“脱いでいるだけ”ではない。あれほどまでに観る人を陶酔させ、世界観に引っ張り、時折は攻撃的にさえ見える強いパフォーマンスができるのは、何かしらの覚悟があるように思える。実際のところ、広瀬さんも最初から女神だったわけではないようだ。

広瀬奈々美

「現場に行ってみたら、恥ずかしくて演技できなくなってしまったんです。半端な気持ちで来てしまった自分に気づいて“バカッ!”って思いました」

それなのに、どうして続けられているんですか。

私は間髪入れずに聞いた。そこに彼女の表現の強さの秘密があると思ったからだ。それに対する彼女の答えはこうだった。

「現場のスタッフさんがみんな“職人”だったんです」

恥ずかしさのあまり、演技がうまくできなかった広瀬さんのために撮影は一時中断。その後、スタッフ総出で「どうしたら演技がしやすい環境ができるか」について話し合ってくれたのだという。それを見て、ADとして制作畑にいたこともある広瀬さんの作品制作へのプロ意識に火が付いた。

「AVの現場ってTVドラマで出てくるような、いやらしい感じとは全然違うんですよ(笑)。衣装、照明、撮影のプロが揃っていて、みんなそれぞれ職人魂を持っていて、自分にプロ意識が欠けていたことを恥ずかしく感じました。同時に“もっと極めていきたい”とこの業界で頑張りたい、って思ったんです」

なるほど、と私は妙に納得してしまった。彼女たちのあの惹きつける強さは、プロ意識に支えられているものだったのか。自分の職業に対する誇りとプロ意識。それが彼女たちの“剥き出しの美しさ”と“強さ”の所以だった。

年齢の葛藤を“表現”として昇華

広瀬奈々美

彼女たちの表現の強さの理由はわかった。しかし、私にはまだ聞いてみたいことがある。職業としてやる以上、一度や二度だけではなく“続け”なくてはいけない。あれだけ強いパフォーマンスを続けるには、よほどの精神統一が必要だろうし、性にまつわる仕事をしていればそれこそ、心ない言葉や視線に傷つくこともあるのではないだろうか。

「私、AV女優さんやストリッパーさんたちのこと、すごく尊敬しているし、カッコいい職業だと思っているんです。でも、性にまつわる仕事をしていると、悩みもあるんじゃないかと思っていて……何か、葛藤はなかったんですか?」

投げかけた質問がまた幼稚かつ失礼なものになってしまった。しかし、広瀬さんは「あぁ、やっぱり最初はありましたね~」とデビュー当時を振り返ってくれた。

「デビューしたのは27歳のときだったんですが、当時『人妻役』をすることが多くて、作品中ですごく地味な洋服を着なきゃいけなかったんです。自分のことを“おばさん”って言わなきゃいけなかったことにも最初は戸惑いました」

広瀬奈々美

27歳で、おばさん?

私も今年で27になるが、自分のことを「おばさん」とは思ったことがない。もちろんティーンと同じだなんて厚かましいことを思っているわけではないが、いくらなんでも自分のことをおばさんと呼ぶのは、まだ、キツい。広瀬さんの葛藤もそこにあった。

「27歳って微妙な年齢じゃないですか。若くはないけど、おばさんという自覚もない。仕事と言えど、それがけっこうキツくて、その反動からかプライベートでギャルみたいな恰好をしていましたね(笑)」

年齢にまつわる葛藤。職業柄、それが色濃くなってはいるが、女神も私含めた他の女性と同様に悩むのかと思うと、どこかホッとしてしまう。しかも、広瀬さんは明るい。年齢の話になると通夜のように湿っぽく陰る私でさえ、彼女を見ていると「何とかなりそうだ」という気持ちになる。

でも、一時はあった葛藤をどうして乗り越えることができたのだろうか。その理由について広瀬さんは「ファンのおかげです」と話す。

広瀬奈々美

「イベント会場に行ったときに、ファンの方と顔を合わせて、“いつも見てます”って言ってもらえたのがすごく嬉しくて。この人たちのためにもっと頑張ろうって思えたんです」

また、ファンの方々と触れ合う中で心のモヤモヤが消えかけてきたころ、広瀬さんは2009年のスカパーアダルト女優大賞を受賞。そのときの“ある出来事”が、今の彼女を支えているようだ。

「私の優勝が決まったとき、いつも応援してくれているおとなしい感じのお客さんが“よっしゃ!”ってガッツポーズをして叫んでいるのがステージから見えて。改めてファンの方に支えてもらっているなと実感したんですよね。自分の年齢とかイメージにまつわる色々が吹っ切れた瞬間でした」

やはりここでも、彼女は「プロ」だった。仕事にまつわる辛さは、仕事によって報われる。懸命に働いている人ならば、誰でも一度は味わったことのあるであろう経験が、彼女自身の葛藤を粉砕したのだ。

私にはまだ、年齢や付与されるイメージにまつわる葛藤がある。広瀬さんの中にももしかしたら葛藤があるのかもしれないし、それでいて明るく話してくれているのかもしれない。だけど、彼女はやっぱり明るく笑っていた。

ストリッパーでも女神でもないけれど、私も表現者の端くれではある。だから書き続けるうちに読み手に救われて、年齢やイメージがどうでもよくなる瞬間が来るのかもしれない。絶対とは言えない。それでも、私の少し先を生きる憧れのお姉さんの姿に、希望を見せてもらった気がした。

ストリップはエロスの芸術

広瀬奈々美

憧れの人を前にして聞きたいことを聞いていたら、だいぶ脱線してしまったようにも思うが、最後に私はもう1つだけ質問をさせてもらうことにした。

私は剥き出しの“性”を表現するということにおいて、AV女優もストリッパーも尊敬している。ただ、圧倒的に性質が違うように感じていた。

演じている側として何か違いを感じていますか、と聞いてみると、「エロスの性質」が違うと広瀬さんは言う。

「ストリップは芸術表現に寄ったエロなんです。その点、AVはエロに特化したエロというか」

ロック座

その言葉を聞いて、わたしはボッティチェッリの『ビーナスの誕生』を思い出した。AVを見て現実離れした設定に違和感を抱く女性はいても、あの絵を見て不快に思う女性はそれほど多くないように思う。エロスを描いた絵画同様、ストリップもその一端を担う芸術作品なのだ。

加えて広瀬さんはこうも言った。

「AVのお仕事も好きなのですが、一度付いたイメージが固まりやすいところはありますよね。その点、ストリップのほうが色々な自分を表現できる良さはあるかもしれません。“いつもは可愛い感じのイメージが多いけど、今回はカッコいい感じで”とか、表現の自由度が高くて、“見てもらいたい自分”を発信できる気がします」

――“見てもらいたい自分”を発信できる“性”の表現

それはまさに、私が最も欲していたものだった。AVにはなくて、ストリップにはあるもの。私になくて、女神たちが持っているもの。それはきっと、「女性の“性”にまつわる主体的な表現」だったのだ。

最後に、広瀬さんは自身のストリップとの出会いをこう振り返ってくれた。

広瀬奈々美

「私も最初はストリップってハードルが高いように思っていたんです。3歳から20歳までバレエを習っていたり、2年くらい前からバーレスクを習ったりとダンスに馴染みはあったんですけど、最初誘ってもらったときも“無理無理!”って。

でも、実際に浅草ロック座に観に来てみたら、本当に綺麗で、“私もこんな風になりたい”って思って始めました。私も踊り子さんに憧れた1人なんです。だから、18歳以上の方で少しでも興味のある方には、老若男女問わず来てほしいって思ってます」

そう言って微笑む広瀬さんの笑顔。それは紛れもなく、強さと美しさを湛える女神のものだった。

浅草での“女性性”をめぐる旅を終えて

ロック座

いつの日からかぼんやりと抱えてきた葛藤。時折暴れ出す、得体の知れない違和感や悔しさに振り回されていた20歳のとき、浅草ロック座での公演を観て、憑き物が少しだけ取れたような気がしたのを覚えている。しかし、私はその“憑き物”の正体がずっとわからずにいた。

あれから7年。今回の取材を通じて、それが何なのかわかった気がする。私が女神たちを見て眩しく感じたのは、欲しかったものは“女性性の主体性”だったのだ。

私は、「男性」が悪いとは思っていないし、「女性」や自分が悪いとも思っていない。ただ、イメージの投影や、何かの作用なしに女性性を一人で立たせる方法や見本を知らなかった。

ロック座

そして、その一例を見せてくれたのが、浅草ロック座の女神たちだったのだ。

彼女たちがそういった意識でパフォーマンスしているのかはわからない。ただ、少なくとも私にはそんな希望に見えた。

あらゆるイメージや要求の追随を許さず、自分から表現を発露する。最後の布一枚を剥ぎ取り、足の指先で天を突く彼女たちが纏っているものこそ、主体的な女性性。

女の“性”は、かく自立する。

今月の旅のMAP

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この記事を書いた人

佐々木 ののか

佐々木 ののか  

1990年北海道帯広に生まれる。筑波大学で国際開発学を学び、新卒でカバン屋に就職後、2015年6月より現職。ライター業では突撃取材に定評があるが、ジャンル・テイスト問わず幅広くこなす。共感性の高い文章を書くのが得意で、人間の葛藤や一見醜い感情に興味を惹かれる。関心があるテーマは、新しい夫婦・家族・関係性など。Wanderlustでは、「旅」をテーマにしたエッセイや小説を執筆していく予定。
Twitter @sasakinonoka

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