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沖縄移住 × 働く女のモラトリアム vol.2

仕事で死にたくなってから沖縄移住するまで②

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この連載は... 2016年6月、縁もゆかりも思い入れのカケラもない沖縄に移住した。きっかけは友人からの電話。「組織から逃れて好きなことを仕事にすれば楽しく生きられる」と信じて会社を退職し、フリーライターになってから約1年。仕事と焦燥感と将来への不安に追われて、久々に死にたくなっていたタイミングだった。

沖縄移住

「久しぶり」

2年半ぶりに突然連絡をくれたNは、大学生時代に大阪で出会って仲良くなった友人である。
年齢はNのほうが2~3歳ほど下だが、出会った時からためらいなくタメ口を使ってくるので実質的な年の差など感じたことがない。聞けば高校時代まで半ヤンキーのギャルだったらしい。

私が半年で2社退職した時には「さすが真崎、ほんま社会不適合www」と盛大に笑い飛ばす、元ヤンで口が悪い彼女のそういう清々しさが、私はわりと嫌いじゃなかった。

しばらく連絡を取っていなかったNの近況を聞く。大学卒業後に海外へ飛び、いろいろあって2か月ほどで帰国。関西の実家でしばらく身を潜めたのちに、縁あって沖縄で働くことになったそう。移住から1年経とうとするタイミングで東京出張の予定が入り、「真崎の家に泊めろ」という用件で連絡をよこしてきた。
 
N「真崎元気か?」
真「元気じゃない」
N「出たな社会不適合wwww」
真「 」
N「wwww」
 
真「沖縄どう?」
N「ええとこやで、人とかめっちゃ適当やし」
真「そうなん?」
N「夜7時開始の飲み会に人揃うん10時やからな」
真「マジで」
N「役所とか銀行で「少々お待ちください」って言われたら最低30分は待たされるからな」
真「マジで」
N「トイレ修理の見積もりお願いしてから1週間経つけど、未だに連絡返ってこーへんからな」
真「マジで」
 
彼女が少し大げさなトーンで語る沖縄人ゆるゆるエピソードの数々に、私はいちいち驚き、お腹を抱えて笑った。愚痴る彼女も笑っている。呆れた口調ではあるが、言葉の奥にどこか沖縄と県民への愛着を感じた。
 
真「おもろいな沖縄」
N「せやろ」

真「私、沖縄住もかな」
N「マジで」
真「え」
 
驚いたNの声を聞いて何事かと思った。そして自分が半無意識で沖縄移住の意思を口にしていたことに気付く。
自分の言葉に本気で動揺する私を、Nは電話越しにゲラゲラと笑い飛ばした。そして「ええやん。真崎と沖縄、なんか合ってると思うで」と言った。Nにそう言われると、なんだかそんな気がした。

 

N「まあとりあえずさ、ほんまに移住考えるんやったら1回沖縄遊びに来なよ」

 

2-1

 

行った。

4月某日。
移住に向けての視察を兼ねた、1泊2日の沖縄小旅行。

 
私と同じく都会で仕事に疲れた友人OL・Aも一緒に来てくれた。彼女は勤め先の会社を休職している最中だった。

 
“今はつらいかもしれないけど、その苦労があなたをきっと成長させてくれるよ”

“嬉しさややりがいは、仕事を続けているうちに実感するようになるよ”

“あなたは、まだまだこれからだよ”

 
「同僚とか周りの人にそう言われるんだよね。その人達の言いたいことも、私のことを思って言ってくれてるのも、すごく分かるんだよね」

休職前のAは、疲れた笑顔でそう語っていた。会社を辞めるか続けるか。正解など存在しない問いだと分かりつつ、彼女の表情だけは圧倒的に不正解だと私は思っていた。

 

そんなAと共に沖縄の地に降り立ち、Nと合流する。大学時代から仲の良かった女3人。四捨五入すれば全員アラサーという歳になってしまったが、集ってしまえばハタチも三十路も関係ない。大学生のようなノリで、ケツメイシを大音量で流して熱唱しながら沖縄の海沿いをドライブした。

N「で、どこ行きたい?」
真「キレイな海」
N「任せろ」

私の雑なリクエストを聞いてNが連れてきてくれたのは、沖縄中部にある村・恩納村。

「開発が進んだビーチは人も多いからな。ここは知らん人も多いし、めっちゃ穴場なプライベートやねんで」

運転しながら誇らしげに語るN。そして、ひと気のない岬のような場所で車を止めた。期待を胸に車を降りて、目の前の景色を目に映した。

 

2-

 

「これは、ヤバイな」
ライターとは思えない語彙力で、体の奥から湧き出る感動を言葉にした。

 

美しい海が、視界いっぱいに、静かに、盛大に、広がっていた。

夕暮れ前で日が傾き始める時間帯。太陽が地平線へ近づくにつれて、光を浴びてキラキラ輝く海面が広がっていく。壮観でしかない光景に、一瞬で心を奪われた。

スニーカーと靴下を脱ぎ捨てて海へ走った。短パンが濡れないギリギリの場所まで走った。時々打ち寄せる大きい波に服を濡らしつつ、その場に立ち尽くして、周りを気にせず大声でゆずの歌をうたいながら、ただただ海と太陽を眺めた。

浅瀬に立ち尽くす私の後ろでは、Aが「きれーい!すごーい!うれしーい!」と歓喜の声を上げながら写真を撮りまくっている。Nは岩場に座って海を見つめている。

 

そして、日が沈む。

 

2-3

 

3人で肩を並べて、黙って空を見上げていた。

 

「これ見れただけでも、沖縄来て良かったわ」

Aもうなずく。
Nは、やっぱり少し誇らしげだった。

 

来た道を車で戻りながら、Nが聞いた。

N「で、どこ行く?」
真「夜の海」
N「任せろ」

 

2-4

 

Nが連れてきてくれたのは、北谷町(ちゃたんちょう)にある人気のリゾート地・アメリカンビレッジ。

海沿いに東京ドーム5個分の商業施設が広がり、海を見ながら食事ができるカフェやバーには日本人と外国人が入り乱れていた。恩納村のプライベートビーチと違って、人が多くて陽気で明るい場所だった。

カップル達が肩を寄せて座っている海沿いに、女3人で腰を下ろす。全員独身、彼氏なし。「独り身がいちばん身軽で自由やな」と話して笑い、そのあと軽くため息をついて、また笑う。

イオンで買ったタピオカミルクティを片手に、iPadでスピッツを流しながら、3人でぼーっとした。暗い海の向こうからは、なぜか花火が上がっていた。

 

ゆるやかで、穏やかで、優しくて、やわらかい幸福感に満ちた時間が流れた。

 

2-5

 

「私、沖縄住むわ」

夜の海をぼんやり眺めながら、私は言った。
「うん、おいでや」Nが賛成した。

「うん、いいと思う」Aも続いた。

 

真「沖縄、やっぱええな」

N「ええとこしか見せてないからな」

真「楽しかった」

N「楽しいことしかしてないからな」

真「思ったより暑くなかった」

N「死ぬほど暑くなるん今からやしな」

真「移住反対なん?」

N「ううん、おいでや」

A「ww」

 

沖縄に住むと決めた当時の心情を、言葉にするのは少し難しい。

「都会を離れたくなった」
「暖かい場所で過ごしたくなった」
「美しい自然のある場所に住みたくなった」
「のんびりした場所で心を癒したかった」

どんな理由も、半分正解で半分不正解のような気がした。

「沖縄に住みたい」という、その衝動だけが私の中にある本物だった。

 

東京に戻った直後、私は沖縄行きを周囲に公言した。そして6月、沖縄に移住した。移住後の様子については後ほど述べる。

東京に戻った直後、Aは休職していた会社を辞めた。そして6月、海外に移住した。連絡は取りあっていない。たまにFacebookに投稿される写真を見ると、彼女はいつも自然な表情でよく笑っている。

 

(vol.3へ続く)

今月の旅のMAP

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この記事を書いた人

真崎 睦美

真崎 睦美  

フリーライター。1989年大阪生まれ京都育ちの26歳。立命館大学国際関係部卒業。2013年に大学を卒業した後は、子ども教育・不登校支援の仕事に従事する。新卒2年間で3社を退職し、自らの組織不適合を疑って2015年4月にフリーランスへ転向。昔から「書くこと」が好きだったため、勢いでライターになる。ついでに副業で朝キャバ嬢になる。源氏名はマキ。入店から半年で店が潰れて専業ライターになる。2016年6月より東京から沖縄に移住。

ありきたりじゃない旅Guide

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