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千年間のまばたき vol.4

山梨増穂の陶芸工房で、縄文のエネルギーと出会う旅④ 秘境のパワースポット神社で千年スギと対面

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この連載は... 山梨県の標高800mの山中にある「増穂の登り窯」での陶芸体験。1000年生きるスギの木、縄文の暮らしの息づく秘境で、大地のパワーに触れる癒しの旅。

masuho

夜に目を閉じ、朝に開けると、1万年前の世界がそこには広がっていた。

 

作陶を終えて下山する前に、太田さんが工房の裏にある氷室神社に私たちを連れて行ってくれた。

標高800mにあるこの工房の、さらに上に神社が建っていると言うのだ。

「この工房はさあ、神社の参道に立ってるんだよ。この周りには大小7つの鳥居があってさ。その鳥居と鳥居の間に建ってんだもの、もんのすごいパワースポットなわけ。今日はその一番御本尊の氷室神社に行きます」

車は岩場を駈け上がる鹿のように急角度に傾きながら、ぐんぐん山道を登って行く。

辿り着いた場所からは、蛇のように細くて長い参道が口を開けて私たちを待っていた。

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登れば登るほど、ぐんと空気が濃くなって、急に重力が強まったみたいに急に体が動かなくなる。

私はパワースポットとか、スピリチュアルな場所にあまり行ったことがない。それほど信じやすいタイプってわけでもない。
そんな私ですらも「この場所はなにかある」と直感するようなものすごいエネルギーが、山の上から洪水のように溢れ出しているのを感じる。

陶芸工房自体にも何かおかしな感じがしたけれど、ここはもっと、すごいものが……。

神社入口

参道を登りきり、神社の境内に入った。
辺りは一面苔むす森だ。まるで若草色の羊水に包まれているみたいだ。なんだかすごく安心する。

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その杉の木は、どおおん、って地面にめり込むようにして、空に向かってまっすぐに立ってた。

見た瞬間、頭の中にビリビリって、確かに電気が走るのを感じた。人間、脳で処理しきれないものを見るとヒューズが飛ぶのだ。頭蓋骨なんかバリバリに割れちまって、脳みそなんかはじけ飛んじまって、何か別の巨大なエネルギーに、全身が支配されてしまう。

 

太田さんが言った。
「1000年生きている杉の木だよ。1000年前からこの山を守っている神様だ」

 

こんなに巨大な杉の木を、私は見たことがなかった。

ものすごく太いってわけじゃない。でも、その幹には、確かな力強さがあった。東京の巨大なビルより、飛行場より、タワーより、スタジアムより、もっと巨大なエネルギーがそこに濃縮されている感じ。

見ているだけで、涙が出そうになる感じ。

宮司さんが近づいてきて、私たちに言った。
「柵の中に入って、触っていいですよ」

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近寄って触れてみると、その表面は柔らかかった。緑の苔がびっしり生えてて、表皮はとっても柔らかくて、指先で触れるとぽろぽろと零れ落ちた。赤ちゃんの肌みたいだった。抱きしめると、お母さんみたいに力強くてあたたかだった。
中から音が聞こえるから、耳をあててごらん、と言われて、耳をそっとくっつけてみた。
トクン、と心臓の音がした。

私はびっくりして、耳を離した。

もう一度、当ててみる。

トクン、トクン。

私はそのうち、それが自分の心臓の音だってことに気づいた。

あまりにも辺りが静かすぎて、自分の心臓の音が木の幹に伝わって耳から聞こえてくるのだ。

 

湧き水が流れるチョロチョロと言う音。さわさわという葉擦れの音。世界の音が自分の体内の音と一体化して、どこまでが自分の体の中なのか、外なのか、わからなくなる感じ。
スカートの中に虫が入って、足を這い上って来るけれど、全然気にならない。

 

世界は私だ。

私の中にも、世界があるのだ。

 

私はもっと、1000年も残るものって、厳しくて、頑なで、他の生き物を押しのけて圧倒するような感じなんだと思っていた。どうだ、すごいだろ、ってもっとエバって立っているものだと思っていた。でも全然違った。

1000年残るものは、柔らかくて、優しいのだ。自分にも、他人にも。

正解を求める頑なさでも、他者に押しつぶされてしまうような、俯いた弱々しさでもない。
本当に強いものは、強さを感じさせないくらいに柔らかいのだ。

100年、10年、1年、1日スパンで生きていたら、この強さにはきっと気づけない。
固くて強くて、正しいものを求めていたら、きっとこの柔らかさにはたどり着かない。

優しいことと強いことは、同義語だ。

私ももっと、優しい人間になりたい。自分にも他人にも。

masuhonoborigama

この場所はあまり人に知られていないらしく、観光客も滅多に訪れないのだそうだ。
私たちを出迎えてくれたこの神社の宮司さんは
「昔、ドラマ『西遊記』の撮影をした時に最後のロケをここでやってね、そん時に香取慎吾君が来たよ。石原慎太郎も、松平健も来たよ」と無邪気に言っていた。

masuho

 

山梨の奥地には、優しくてパワフルで正解のない世界が広がっていた。

行く前よりも少しだけ、強い人間になれた気がした。

 

masuho

-information-

増穂登り窯では、体験ワークショップを開催している。事前にウェブサイトから申し込みが必要。

◆増穂登り窯
masuhonoborigama
〒400-0514 山梨県南巨摩郡富士川町平林2144−4
TEL:0556-22-8941
FAX:0556-22-8942
http://masuhonoborigama.com/

◆山梨県富士川町「まほらの湯」
増穂登り窯のある櫛形山の麓には、藤川町の町営温泉がある。
masuho
〒400-0505 山梨県南巨摩郡富士川町長沢1757-2
TEL:0556-22-7227
http://www.alps-hs.co.jp/mahoranoyu/

◆平林交流の里「みさき耕舎」平林活性化組合
工房まで向かう途中には、手打ち蕎麦が食べられる蕎麦屋も。
富士山が眺められる見晴らしの良い場所にある。
masuho
〒400-0514 山梨県南巨摩郡富士川町平林2335-1
TEL:0556-22-0168
http://www.town.fujikawa.yamanashi.jp/map/misaki/

今月の旅のMAP

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この記事を書いた人

小野 美由紀

小野 美由紀  

作家。1985年東京生まれ。著書に絵本『ひかりのりゅう』『傷口から人生。~メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』『人生に疲れたらスペイン巡礼 飲み・食べ・歩く800キロの旅』がある。趣味はサーフィンと琉球空手。

ありきたりじゃない旅Guide

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