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千年間のまばたき vol.3

山梨増穂の陶芸工房で、縄文のエネルギーと出会う旅③ 本当はワイルドな日本人?

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この連載は... 山梨県の標高800mの山中にある「増穂の登り窯」での陶芸体験。1000年生きるスギの木、縄文の暮らしの息づく秘境で、大地のパワーに触れる癒しの旅。

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▶︎ 山梨増穂の陶芸工房に、縄文のエネルギーと出会う旅①
▶︎ 山梨増穂の陶芸工房に、縄文のエネルギーと出会う旅② 正解のない世界を生きる

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池田満寿夫の残した八方窯の中に入らせてもらった。

奥行き6.3メートル、高さ1.8メートルと巨大だ。

ぐるりと囲むようにして、薪を放り込む口が5つもある。通常の窯と違って全方位から熱を送るので、中に入れた作品の全体がまんべんなく焼き固められ、荒々しい表情が出るのだそうだ。

中は真っ暗で、ほんの少し炭の臭いがする。火が入っているわけではないのに、なんだかぼやっと温かい。まるでお母さんの子宮にいるみたいだ。私は自分が湿った粘土の器になって、火に抱かれているところを想像した。

 

太田さんは言う。

「私と池田はさ、電気のない時代の焼き物の微妙な色合いや風合いを何とか出したくて、薪の窯を作ろうと思ったんだよ。それで場所を探して、たどり着いたのがここってわけ。燃料になる間伐材が、周りにたっくさんあるんだもの」

 

工房の敷地の入り口には、見渡す限り山のように間伐材が積んである。巨大なアスレチックかエジプトのピラミッドみたいだ。

 

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「電気の窯と違って、薪が必要なんだからさ、窯焚きの時には1230℃の火を絶やさないように、ずっと見張っていないといけないんだ。

6時間交代で、70人くらいが関わるんだよ。70時間も燃やすんだからさ。満天の星空の下、寝ずに火の番をするんだよ。プロもアマも一緒になって、窯詰め、窯焚き、窯出しまで、みんなでやるの。こんな窯、ここにしかないよ」

 

こんな大自然の中、満天の星を眺めながら一晩じゅう火の番をする。一体どんな気持ちになるだろう?

 

「えー、もんの凄く手がかかるんですね。電気の窯と薪の窯って、そんなに違うんですかぁ?」

 

太田さんは、何も知らないなあ、という顔をして私を見る。

 

「だって、一万年前は電気なんかないんだからさ、縄文時代の人々は、土器を火で焼いていたんだよ。あの風合いを出そうとしたら、薪しかないだろ?」

 

そうか、ここで作られた陶芸作品たちが何に似ているかと言ったら、そのままそっくり縄文土器みたいなのだ。ゴツゴツして、いびつで、正解じゃなくって、赤黒くて、力があって。

 

そう言うと、太田さんは胸を張って言った。

 

「この辺掘れば土器なんかいくらでも出てくるよ、中央自動車道なんかもそうさ。あのハイウェイの下には、縄文時代の遺跡が埋まっているんだ」

 

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パワフルでワイルドな縄文文化

そうだった。中学の日本史で習った以来すっかり忘れていたが、山梨は遺跡王国なのだ。縄文時代の遺跡が数多く発見されていて、県内だけでも7つもの縄文に関する博物館がある。まだ見つかっていない遺跡が足元に埋もれていたって、ちっとも不思議じゃない。

 

「縄文時代の文化って、とっても特殊なんだよぉ。こんな文化、中国にもない。その後の日本にもない。縄で模様をつける文明っていうのはさ、アステカにもあるんだけど、遠いよね。本当にどこから来たのかわからない。なぜ弥生時代からこんなにつるんとした凸凹のない文化になったのか、こんなにも変わってしまったのか、わからないんだよね。日本人って、すごくおとなしくて平和的な民族だと思われているけど、縄文時代の土器を見たら、そんなの嘘だって思わない?本当はもっと、パワフルでワイルドな民族だったんだと思うよ。」

 

以前、長野で開催されている「原始感覚芸術祭」に行った時、ファシリテーターとして作家の田口ランディさんが参加されていた。ランディさんはこうおっしゃっていた。

 

「縄文時代のパワーってのはね、渦なんですよ。ぐるぐる渦巻いてんの。だって縄文土器は渦巻き模様だし、縄文時代の遺跡っていうのはさ、ムラの中心を囲んで、同心円状に建っているでしょう。それでさ、中心は“空”なんだよね。渦の真ん中には、何もないの」

 

縄文時代の人々は、今よりも目に見えないものを見る力が強かったから、自分たちのエネルギーが渦だってことを、感覚的にわかっていたのかもしれない。まっすぐ一点を目指す力じゃない。どこに向かうかもわからなくて、いびつであやふやで、暴力的で凶暴で、脱線して、それでも、無から有を生み出す、圧倒的な危うい力。

それを表現しようとして、土器や土偶に、縄をぐるぐる、巻きつけたのかもしれない。

 

「でさ、僕はね、もしかしたら縄文時代の人は宇宙と交信してたんじゃないかと思うのよ。だってさ、人間、目で見たものからインスピレーションを受けるだろ?ほら、縄文土器ってさ、ひっくり返せばロケットみたいじゃん。土偶だって宇宙人みたいだし」

 

これにはさすがに生徒の皆も苦笑する。太田さんはムキになって主張する。

 

「いやあ、でも、縄文時代の人々は、我々にはない不思議な力を持っていたと思うんだよね。知ってる?中央自動車道でしょっちゅう事故が起きるのはさ、その下に埋められた縄文遺跡の神々の祟りなんだ」

 

なんだか話の雲行きが怪しくなってきた。でも、こういう話は嫌いじゃない。私は目をつぶって想像する。

この地に渦巻く縄文のパワーを。

 

電気も水道もガスもない時代から、人間は自分達の手と土だけで、こんなに美しいものを作り出してきた。

人が自分の手で何かを作りだそうとする力って、本当はものすごいのだ。電気がないと動けない機械なんて比べものにならない。

 

「しかも、火なんてさ、電気と違って、人間の思い通りにならないんだもの。薪が弾けて、中の作品に当たると割れちゃうし、どんな模様が出るかもわからない。それが面白いんだよ。本当にパワーのあるものは、思い通りにならないんだ」

 

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人は生きてせいぜい100年だ。でも私たちの想像力は1000年の時を容易に超えられる。1万年前に、ここに暮らしていた人たちが見ていた世界を、私たちは想像の中ですぐにでも再現できる。知るはずのない1万年前の空気を、発掘された土器の質感から、形から、電気信号みたいにピリピリ、感じることができる。

人が本気の祈りを込めて作ったものは、時間も空間も飛び越えて、10000年後に生きる人々に何かを伝える力を持つのかもしれない。その時代の理屈も正しさも無意味だ。圧倒的な、人間の、何かを作りたいというパワー。残るのは、ただそれだけ。

 

このワークショップを主催している齋藤先生は、私が仕事で悩んでいるのを知っていて、こう言った。

 

「あのね、小野さん。クリエイティブでいるためにはまず、ワイルドでいることなのよ」

 

(Vol.4へ続く)

 

◆増穂登り窯
〒400-0514 山梨県南巨摩郡富士川町平林2144−4
TEL:0556-22-8941
FAX:0556-22-8942
http://masuhonoborigama.com/

今月の旅のMAP

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この記事を書いた人

小野 美由紀

小野 美由紀  

作家。1985年東京生まれ。著書に絵本『ひかりのりゅう』『傷口から人生。~メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』『人生に疲れたらスペイン巡礼 飲み・食べ・歩く800キロの旅』がある。趣味はサーフィンと琉球空手。

ありきたりじゃない旅Guide

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