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千年間のまばたき vol.2

山梨増穂の陶芸工房で、縄文のエネルギーと出会う旅② 正解のない世界を生きる

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この連載は... 山梨県の標高800mの山中にある「増穂の登り窯」での陶芸体験。1000年生きるスギの木、縄文の暮らしの息づく秘境で、大地のパワーに触れる癒しの旅。

山梨増穂の陶芸工房

▶︎ 山梨増穂の陶芸工房に、縄文のエネルギーと出会う旅①

作業に入ってすぐ、齋藤先生の言っていた「この場所は凄い」の意味がわかった。

 

masuhonoborigama

 

ここではまっすぐにモノが作れない。

下界のやり方で、作れるものが作れない。うまくやろう、きれいに作ろうとすればするほど、粘土が手からすり抜けて、言うことを聞かない。ぐんにゃり曲がってしまう。この場に渦巻く巨大なエネルギーフィールドに意識が巻き込まれて、都会のアタマが考えた「キレイなもの」を作ろうとしても、カラダが脳の電気信号を拒否するのだ。

「まっすぐ正しくなんて、やりたくない!」って。

 

そう太田さんにいうと、彼は

「そりゃあそうだヨォ、だってここにはさ、縄文時代にあったもんが、なんでもあるんだもん。1万年前と、なあんにも変わらないんだ。そんなところで作陶してんだからさ、都会と同じものなんか、作れるわけないよ!」とあっけらかんと言った。

 

「アケビもどんぐりも、シカもイノシシも出るよ。そこにクルミの木があるでしょ?あれなんか、1万年前から、実を落として、それが育って、また実を落として、木が朽ちて、朽ちた木が周りの植物たちの栄養になって……を繰り返してんだもん。1万年前にはさ、その辺で暮らしてた縄文人たちが、落ちたクルミ、食べてたんだ」

 

太田さんはまるで昨日見たことのように、1万年前のことを語る。

時間の感覚がぐんにゃり曲がって、つられて私の頭ん中もグルグルになる。

 

ああ、そうか。

この場所には正解がないのだ。

だからこんなに、楽な気持ちになるのだ・・・。

 

masuhonoborigama

 

「うまく作ろう、正解を求めよう」

 

私たちは何かをしようとするとき、常にその呪縛から逃れられない。

仕事の成果だけじゃない。私たちは常に、人生の中で見えない評価と戦っている。職場でも学校でも人間関係でも、結婚や恋愛といったライフイベントでも。

だから知らず知らずのうちに、正解を求める。

 

そうするとなぜかおかしくなる。欲しいものとずれる。いつのまにか、最初に思い描いていたものからは遠く離れている。

もちろんそれでも社会はつつがなく回るし、評価もされる。でも、何かが足りない。

 

「正解から外れるのが、怖い」

 

私は作家として、間違うのも、つまらないものを作るのも、世に認められないのも、怖い。こんなみみっちい自分が嫌になる。村上春樹とかヘミングウェイみたいに堂々としていられたらカッコイイのに。

評価されなくたって自分の納得できるものを作れればそれでいい、なんて云い切れたら楽なのに。

でも、やっぱりそれじゃ怖い。

 

正解をあらかじめ決めてまっすぐそれに向かわせようとする、社会の線的なエネルギーを恐れながら、同時にそういう力の出し方しか、できない自分がいる。

 

でも、この場所は違う。そういう力の出し方が通用しない。

 

大地の底から何かが問いかけてくるのだ。

 

「お前は本当は何がしたいの?

お前のカラダの中の、社会に補正される前のエネルギーは、どんな形をしているの?」

 

って。

 

masuhonoborigama

 

太田さんが、夢中で作陶する皆を見ながら言った。

 

「池田満寿夫はさぁ、1000年先まで残るものを作ろうとしたんだよ。

1000年残るものったらさぁ、その時代に正解って言われるとは、限んないだろ?」

 

1000年!私にはその重みがわからない。大きすぎて掴みきれない。瞬きしたら1年。あくびをしたら100年。宇宙からしたらそんなもので、1000年だって赤ちゃんだ。それを知るには観音菩薩の視座が必要。時間と常にイチャイチャしている気がしてるのに、私は時間を何も知らない。

 

「今、東京にあるものは、ここには何にもないかもしれないけどね。だって東京で『新しい』ったってさ、たかだか100年単位の話だろ?ここはさ、1000年スパンなんだよ。1000年単位で考えるの」

 

私は都会に暮らして、毎日色々なものを一回きりで消費して、だんだん、明日には消えてゆくもの、にしか価値を感じられなくなっている。時間を感じる感覚が磨耗している。明日には消えていくものを、一生懸命作って、それで一息ついて、また、次の日も、その次の日も、明日には消えていくものを作っている。

私がもし今からでも1000年残るものを作ろう、と思ったら、果たして作れるだろうか?

 

masuhonoborigama

 

一緒に来ていた人の中に、大手広告代理店に勤める男の人がいた。彼はこう言っていた。

「僕はずっとこの業界にいて、CMとか、キャンペーンとか、3ヶ月で消えるものを作っています。そういう仕事をしていて、こういう“正解のない”場所に来ると、なんだか胸が痛くなる。普段は人に頼む立場ですからねぇ。“言われたものを、正しく、型どおりに作れ”って」

そう言った後に彼はこう付け加えた。

 

「けど、自由にやっていいよ、って言うと、”それじゃ困る、指示をくれ”っていうクリエイターさんが多いのも、また事実なんですよねぇ……」

 

自由と正解。私たちはその間をいったりきたりしている。現代の正解は複雑だ。最大公約数の人々の「いいね」を求めようとして、でも、時々、それでいいの?って自分の心に引っ張られて、私たちはしょっちゅう、立ち止まる。もちろん、縄文時代の人々だって、正しい判断をしなければ死ぬわけだから、まるきり自由ってわけじゃなかっただろう。

 

でも、死んだからって本当は別に間違いじゃないのだ。土に還って他の生き物の栄養になるだけだ。DNAの正誤は1000年経たないと分からない。どれだけわあきゃあ騒いだって、1000年後の未来は、私たちには決められない。

 

私たちの世界には、本当は正解なんてない。世界って、そんなにヤワじゃない。もっと、トランポリンみたいに、びよよよんって私たちを跳ね返すほど、弾力があって柔軟で、お母さんのお腹みたいに、深くて柔らかで、あったかくて……。

 

masuhonoborigama

 

vol.3へ続く» 本当はワイルドな日本人?

 

◆増穂登り窯
〒400-0514 山梨県南巨摩郡富士川町平林2144−4
TEL:0556-22-8941
FAX:0556-22-8942
http://masuhonoborigama.com/

今月の旅のMAP

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この記事を書いた人

小野 美由紀

小野 美由紀  

作家。1985年東京生まれ。著書に絵本『ひかりのりゅう』『傷口から人生。~メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』『人生に疲れたらスペイン巡礼 飲み・食べ・歩く800キロの旅』がある。趣味はサーフィンと琉球空手。

ありきたりじゃない旅Guide

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