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メランコリック・メルヘン・ロード 〜宇都宮編〜 vol.3

私の宇都宮は、ぎょうざより、マロントーストの味がする

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この連載は... 「かわいい」と「スイーツ」、そしてわが子を愛する1990年生まれの大石蘭が、新しいときめきと癒しを求めて飛び出しさまよう旅のエッセイ! いつか見た夢の景色、甘い魅惑のお菓子、誰も知らない私だけの秘密の場所……日常を抜け出して妄想を繰り広げれば、そこはもう小さな旅の入り口。宇都宮編!

メランコリック・メルヘン・ロード 宇都宮

▶︎俗世を忘れて、妖精と天使の国へ。Holy宇都宮
▶︎歴史とポップが交錯する、ダーク・ファンタジーな石窟

 

オリオン通りで見つけた、かわいいお店

バスで宇都宮駅の近くに戻り、オリオン通り商店街(そういえば、山本ルンルン先生の『オリオン街』ってマンガ、小学生のとき好きだったな)を歩く。なつかしい雰囲気が漂いつつも、ちゃんと活気がある商店街。

上を見上げると、ガーランドやぬいぐるみたちが飾られた、パステルカラーのショウウィンドウが目に入る。そこだけ異色のオーラ、と思ってよく見ると、ショウウィンドウには「Angelic Pretty」の文字。人気ロリータブランドだった。やっぱり栃木にもロリータはいるのだ!歩いているロリータさんには出会えなかったけど、昔ながらの商店街の二階にロリータブランドが入っているというだけで、もうときめいてくる。

宇都宮ベビーショップ カネヤ

その数軒先は、ベビー服のお店のよう。レトロなネオンの店名の上には、こぐまやこびとがいる。お店の前に立っている看板は、ハッピを着たキューピーみたいな子どものかたち。このレトロさ、かなり昔からあるお店なのかも。

むすこにおみやげがないかな……と、店先に出されているベビー服を見ていたら、中からお兄さんが出てきた。

「観光ですか」

スーツケースをたずさえている私に聞く。

「あ、そうなんです。昨日は那須に行って、今日は宇都宮に」

笑顔がさわやかなお兄さんだ。こんな男の人がベビー服を売っているというのがなんだかいい。

「どちらからなんですか?」

「東京です」

「へえ、東京から!」

並べてあるベビー服はデパートほど高くないけれど、西松屋やベビーザらスほど安くはない。キッチュなデザインが、ありそうでなかった感じだ。

「1歳のむすこがいるので、おみやげがないかなと思って……」

「そうなんですか!1歳だと、このあたりのサイズですね」

お兄さんはお店の中を案内してくれた。新生児用から幼稚園児が着れそうなものまで、肌着や小物も幅広く置いてある。店内をぐるっと見たあと、もう一度外のハンガーラックを物色。
季節ものの甚平やゆかたに混じって、おなかに「金」という文字が赤で書いてある、金太郎みたいな前掛けを見つけた。

――うわあ、着せたい……。

「これ、パンツもついてて、このセットだけで過ごせるんですよ」

お兄さんに即見つかり、ちょっと照れる。

「かわいいですねこれ。男の子だから、似合いそうだなと思って……」

これからの暑くなる季節に着やすい部屋着を探していたところだった。1580円。衝動買いするのはちょっとためらったけど、帰りに余裕があったら絶対買おうと心に決める。

「あとでまた来ます!」

その言葉は社交辞令にはしたくなかった。お兄さんは笑顔で送り出してくれた。商店街で油を売るのもほどほどに、次の目的地へ向かわなきゃ。かわいいものが唐突に現れてこまる……。
ベビー服ショップから遠ざかるにつれて、金太郎の前掛けが、どんどん頭の中から離れなくなる。これは運命だよ。あのお店、たぶんあそこにしかないよ。買わないと後悔するよ……。

宇都宮うさぎや

 

岡崎京子と、相対性理論と、甘い午後

地図を見て、ここからそんなに遠くなさそうな喫茶「タフドア」に行ってみることにする。
少し迷いながら、路地裏のマンションにまぎれて、木にとまることりが描かれたかわいい看板を見つけた。ドアを開けると、思ったより広くて、天井が高い。もっと純喫茶のようなお店かと思っていた。中は満席。
BGMに、相対性理論が流れている。やくしまるえつこのウィスパーボイスの浮かぶ空間で、みんながのんびりごはんを食べている光景は、ちょっとシュール。
待っているあいだ、すみっこの本棚の前に、店員さんが椅子を出してくれた。岡崎京子のマンガが並んでいる。お茶しながらここの本を読んで、ブックカフェのような楽しみ方もできるみたい。
ポップな色のガールズコミックたち。この中に、私の本がまぎれてても違和感はない……けど、それはそれこそ妄想だった。いつかそんなふうになったらいいな。知らない街のかわいいカフェにふらっと入ったら、本棚に置いてある私の本に出会うんだ。
本を物色しているうちに、すぐに席は空いて、カウンター席に案内してもらった。気になっていたマロンクリームトーストと、ロイヤルミルクティーをたのむことにする。
手書きの文字とイラストで描かれたメニュー表がかわいい。BGMは相変わらずずっと相対性理論の「シフォン主義」だ。
相対性理論を聴いていると、大学1年のころを思い出す。というか、さっきの妖精ミュージアムといい、大学1年のころを思い出してばっかりだ……。このアルバムを友達が貸してくれて、当時はしばらくこればかり聴いていたのだ。その子とカラオケに行くとよく相対性理論を歌った。元気かな。

宇都宮喫茶タフドア

運ばれてきたマロンクリームトーストは、4枚切りよりもぶあついんじゃないかというくらいの大きさの食パンの、いちめんにマロンペーストが塗ってあり、さらにぽてっぽてっとホイップクリームが大胆にのせられている。その迫力にびっくりしたけど、口に運ぶとパンが意外にも軽い食感で、本当においしい。外はかりっとしていて、中はふんわりもっちりしっとり。
マロンがしっかり甘いぶん、たっぷりの生クリームはぜんぜん甘くなくて、ぺろっと食べられてしまう。でももたれない。
ロイヤルミルクティーもとてもおいしい。表面にきめ細やかな泡が立っていて、濃いけれど渋さがない……クリーミーでさっぱりしている。
こんなおいしいロイヤルミルクティーには、なかなか出会えない。チェーン店のロイヤルミルクティーって、濃いのはいいんだけどなんだか渋くて、最後のほうはおいしくなくなってきたりするから。
ふわふわのやさしいロイヤルミルクティーが、相対性理論の曲に合う。

宇都宮亀甲堂本店

 

ベビーショップと小さなおみやげ

おなかを満たしたところで商店街に戻り、「ベビーショップ カネヤ」にふたたび駆け込む。
さっきのお兄さんはもういなくて、キャンディーズのスーちゃん(とくに「ちゅらさん」のときの)みたいな雰囲気の女の人が、笑顔で迎えてくれた。さっきのお兄さんの、お母さんなのかな。
外のハンガーラックに出ていた、金太郎の前掛けを迷わず取って、レジに向かう。

「これ、金太郎さん、いいですよ〜。これからの季節は、涼しくて」

女の人は、水色の包み紙で金太郎さんを包んでくれた。
聞いてみると、このお店はここにしかない、街のベビー服屋さんで、しかも70年前からあるんだそうだ。

「2階のレストランはね、娘がやってるんですよ。お得だからね、よかったら行ってみてくださいね」

動物やこびとがいるファンシーな看板のある2階は、同じ一家がやっているレストランだったのだ。
次はむすこを連れて、きっと来よう。そのころには、自分で歩いて、おしゃべりもできるかな。

宇都宮ベビーショップ カネヤ

乗ろうと思っていた電車の出発時刻が近づいてきた。
次にまた行きたい場所も増えた。
少し重くなったスーツケースを押しながら、宇都宮駅へ向かう。
ここから東京へ行くのも、また新しい旅。

どんな旅が始まるんだろう?

人の少ない電車に乗って、窓際にさっき買ったパンを並べてみた。
またしばらくの間、電車に揺られることにする。好きなものがいっぱいの街へ。

 

 

-メランコリック・メルヘン・ロード 宇都宮編 The End-

 

今月の旅のMAP

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この記事を書いた人

大石 蘭

大石 蘭  

1990年福岡県生まれ。東京大学教養学部・東京大学大学院修士過程修了。
少女文化と原宿が好き。大学在学中に雑誌『Spoon.』に掲載の自伝的短編エッセイ「そんなお洋服ばっかり着ていると、バカに見えるよ」が同年代の女子をはじめ、クリエイターの注目を集める。その後、雑誌・書籍などで本格的に執筆活動をはじめる。
2014年に初の著書『妄想娘、東大をめざす』(幻冬舎) を刊行。自身の大学受験エピソードを描いたコミックエッセイとして話題に。
2015年にフリーランス活動をスタートするとともに、結婚、出産。雑誌やWEBなどでエッセイ、イラストコラム、イラストレーションを執筆・制作しながら現在も活動中。一児の母。

ありきたりじゃない旅Guide

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