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メランコリック・メルヘン・ロード 〜宇都宮編〜 vol.1

俗世を忘れて、妖精と天使の国へ。Holy宇都宮

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この連載は... 「かわいい」と「スイーツ」、そしてわが子を愛する1990年生まれの大石蘭が、新しいときめきと癒しを求めて飛び出しさまよう旅のエッセイ! いつか見た夢の景色、甘い魅惑のお菓子、誰も知らない私だけの秘密の場所……日常を抜け出して妄想を繰り広げれば、そこはもう小さな旅の入り口。宇都宮編!

宇都宮

神聖な気分になりたいなら、宇都宮を歩こう

ひとりっきりでいられる、タイムリミットはあと半日。
那須と東京の中間地点、宇都宮のホテルで目が覚める朝。夕方の電車で東京へ戻る。
やさしくなって帰りたい。
旅に出るのは、愛するものをもっと愛せるようになるためだ。
東京で待っている家族と仕事。自ら望んでいたもののはずなのに、余裕がなくなると、そのよろこびを見失いそうになる。
ひとりのうちに、知らない街にいるうちに、できるだけ神聖な場所に行こうと思った。
現実から遠く、ファンタジーに近いどこか。
宇都宮にファンタジー?
駅の改札を出るなりぎょうざが売られていて、駅前にはやたらぴかぴかした動物たちとぎょうざの石像があり、路地にはぎょうざ屋さんののぼりが立っている。
ぎょうざの街、宇都宮。
でも私にとって、宇都宮といえばぎょうざよりも、妖精なのだ。

宇都宮

 

大学デビューのお守りだった、『妖精学大全』のこと

それは大学1年のとき。
必死の思いで東大に受かったはいいけれど、クラスメイトとの教養の差に打ちのめされ、すがるようにふらふらと大学生協の書店に入る毎日。私は予備校から合格祝いでもらった図書カードで、興味のある本をつぎつぎに買うという贅沢に浸っていた。
そのときに出会ったのが、『妖精学大全』というぶ厚い本。
世界中の妖精の種類や、妖精にまつわる言葉について、図版つきで細かく書いてある。
こんな、私しか興味をもたないような本があることに、救われた思いがした。よくわからないけど、私もこの大学にいていいんだ、という気がしてきた。
私はその本を衝動買いし、お守りのように持ち歩いた。
それでなくても私のかばんにはいつも授業に関係のない好きな本が数冊入っていて、自信をなくしたときのバイブルにしていたのだ。
そんなことをしていたらクラスの男子たちに笑われた。

「何それ妖精学大全って……!」

「やめろって、あの子にそういうこと教えるなよ」

『妖精学大全』が面白いのかと思ったら、「妖精」というワードに反応しているだけらしく、「30歳まで童貞だったら妖精になれるって話をしてたんだよー!」と騒いでいる。……それも初めて知ったけど、私の妖精図鑑にそんなことは書いてない。

ちょうどそのころ、何でも自由なテーマを設けて、それについて調べてレポートを書こうという、論文執筆の入門編のような授業があった。
『妖精学大全』が役に立つときがきた!
そう閃いた私は、妖精をテーマにちょっとした研究をはじめたのだった。

うつのみや妖精ミュージアム

 

妖精は、市民プラザにいる!

そのときに、一度だけ宇都宮に来たことがある。

うつのみや妖精ミュージアム。市民プラザの建物の中の一角に、その小さな美術館はある。
妖精ミュージアムの名誉館長である、宇都宮出身の井村君江さんという方は、日本の「妖精学」の第一人者で、妖精に関する本を多く書かれている。『妖精学大全』もその一冊だった。
そういえば、偶然というか必然というか、私は大学院に進み、井村さんがかつて所属していたところと同じ研究室で修士号を取ることになる。専門分野は妖精じゃないけど……。

7年ぶりに来た2度目の宇都宮。妖精ミュージアムが変わらずちゃんとあったことにほっとする。あれは幻だったかな、と思うような、フェアリーダストみたいにふわっとした記憶を残す場所だったから。
天野喜孝の出がけた入り口のステンドグラスが、こんなに妖艶で美しかったことは、前に来たときには気がつかなかった。

うつのみや妖精ミュージアム

中央のスペースは、「妖精博士の部屋」。タンスのひきだしを開けると、壁に妖精が踊る影が映し出される。歌いながら消えていく妖精。ひきだしの中には、お花や蝶の標本や、妖精が好きなものたちが並んでいる。資料というより、ドールハウスみたいだ。
小学生のとき、妖精はチーズが好物だと何かの本で読んで、ミニチュアのお皿にチーズのかけらをのせて、自分の部屋のカーテンのかげに置いておいたことを思い出した。そのまま何日も忘れていて、「へんな匂いがする」と母に言われてあわてて片付けたんだった。妖精は食べもののエッセンスだけを食べるんだって。

きっとそのときの私は、閉じられたこの狭い世界の、目に見える相手じゃなくて、見えない別世界の、そっと味方でいてくれる誰かとつながりたかったんだろう。
大人になるにつれて、妖精なんて信じなくなったと思っていたけど、妖精を探していたあの気持ちは、ずっと私の中で生き続けているのかもしれない。

受験勉強をしていたときも、好きな人を追いかけていたときも、大きなおなかを撫でていたときも。そして、絵を描いているときも、言葉を綴っているときも。

カトリック松が峰教会

オープンな雰囲気の、静かなカトリック教会でしばし癒されたあと、宇都宮駅から少し離れてみることにする。

カトリック松が峰教会

 

-To Be Continued-

 

◆うつのみや妖精ミュージアム
〒320-0026 栃木県宇都宮市馬場通り4-1-1
TEL/FAX:028-616-1573
http://www2.ucatv.ne.jp/~ufairy-m/index.html

◆カトリック松が峰教会
〒320-0807 栃木県宇都宮市松が峰1-1-5
TEL:028-635-0405
FAX:028-635-9666
http://www2.ucatv.ne.jp/~matumine.sea/

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この記事を書いた人

大石 蘭

大石 蘭  

1990年福岡県生まれ。東京大学教養学部・東京大学大学院修士過程修了。
少女文化と原宿が好き。大学在学中に雑誌『Spoon.』に掲載の自伝的短編エッセイ「そんなお洋服ばっかり着ていると、バカに見えるよ」が同年代の女子をはじめ、クリエイターの注目を集める。その後、雑誌・書籍などで本格的に執筆活動をはじめる。
2014年に初の著書『妄想娘、東大をめざす』(幻冬舎) を刊行。自身の大学受験エピソードを描いたコミックエッセイとして話題に。
2015年にフリーランス活動をスタートするとともに、結婚、出産。雑誌やWEBなどでエッセイ、イラストコラム、イラストレーションを執筆・制作しながら現在も活動中。一児の母。

ありきたりじゃない旅Guide

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