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メランコリック・メルヘン・ロード 〜那須編〜 vol.4

おいしい冒険には、ちょっとのハラハラと妄想を!

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この連載は... 「かわいい」と「スイーツ」、そしてわが子を愛する1990年生まれの大石蘭が、新しいときめきと癒しを求めて飛び出しさまよう旅のエッセイ! いつか見た夢の景色、甘い魅惑のお菓子、誰も知らない私だけの秘密の場所……日常を抜け出して妄想を繰り広げれば、そこはもう小さな旅の入り口。

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▶︎ 旅のはじまり、夢路をさまようハーブの香り
▶︎ ステンドグラスに照らされる、乙女の祈りと小さな恋
▶︎ 「ふわっ」「とろっ」 に我を忘れる、甘いワンダーランド

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優雅にケーキを食べている場合じゃなかった。

帰りはチーズガーデンからバスに乗って那須塩原駅まで行き、のんびり電車で宇都宮まで行こうと思っていたのだけど。

バス停の場所を確認していなかったせいで乗る予定のバス(本数がとても少ない)を思いっきり逃し、しかも充電器の調子がわるく、スマホのバッテリーが切れ、適当に歩いた先のよくわからないバス停からよくわからない駅へ向かうことになった。

バス停の場所はちゃんと調べてから時間を逆算しましょう。ちゃんとしたスマホの充電器も持っていたほうがいい。

ほどなくしてバスは黒磯という駅へ着いた。那須塩原の隣の駅で、宇都宮駅行きの電車も出ている。次の電車まで、まだ20分ほど時間がありそうなので、駅前の和菓子屋さんに行ってみることにした。

駅前の商店街はほとんどさびれているけれど、コーヒーのテイクアウトをやっている、新しめのおしゃれなカフェもあったりする。

「明治屋」というお店で、「詩(うた)のあるケーキ 那須野牧歌」と書かれた素朴なかわいいパッケージのブッセのようなお菓子と、牛のキャラクターの焼き印が押してあるバターどら焼きを買った。鮮やかな青と蛍光ピンクのクローバー模様の、最近ではなかなか見ないようなレトロな紙袋に入れてもらい、さっきハラハラしたことなんて忘れてすっかり嬉しくなる。

思いがけずもう一軒行けたので、那須の旅は大満足。

ハプニングのない旅なんて、ね。

 

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JR宇都宮線。宇都宮へ向かいながら、暮れてゆく那須の家々に空想を浮かべる。

新しいおしゃれな家じゃない、古くて時代遅れな家の、二階の窓が好きだ。生活感がありすぎるのが一周まわって、むしろ生活感がないというか、本当に人が住んでいるのか疑いたくなる。でも本当にその窓のひとつひとつの向こうで人が起きたり寝たり喋ったりしていて、毎日いろんなご飯が出て、愛し合ったりケンカしたりしているのだろう。

――なんだか家ってかわいい。

ふと、そう思う。屋根がついていて、カーテンのかかった窓があって、ころんとした箱形。見かけはファンシーだけど、心地よい実用性を兼ね備えている。おしゃれさも大事だけど、景観になじむことが前提でもあって。

「家」には、今の私の思う「かわいい」がぎゅっと詰まっているのかもしれない。

「おしゃれは我慢!」と無理をして飾り立てるより、生活をちょっとときめかせるための、自分らしい小さな工夫をすること。当たり前の毎日を、退屈から解き放つ、クリエイティブな魔法。

 

そんなことを考えながら、ひとりぼっちで電車に揺られる。閉園後のテーマパークを出てきた気分だけど、私にとっては非日常の那須は、誰かの日常の場所でもあるのだ。

最近、おしゃれな女子の間で緑を感じる「ボタニカル」や、素朴な「ラスティック」のスタイルが流行っているけれど、それはいつだってここにある。

きっとここに住んでいる、私と同じくらいか、もっと若い女の子もいるはず。彼女はどんなファッションで、どんな雑誌を読んで、誰のファンなんだろう……。

今はインターネットがあるから、大都会の人も、コンビニもないような土地の人も、同じ情報にアクセスできる時代。さっき迷いかけた薬屋のあたりの田んぼのあぜ道で、ロリータファッションの女の子がTwitterで原宿の読者モデルにリプライを送っている……なんてミスマッチな光景だって、今は全然ありえない話じゃない。

通販でロリータブランドの服を買い、那須高原を闊歩する女の子。東京でショッピングする日を夢見て、美術館の受付のバイトをしている……

「那須ってちょっと不便だけど、ここにいると自由な気分になれるんだ。肩書きなんて、なんでもいいの。お姫様にも少女にも、黒猫にもことりにもなれる。だから私、東京に行っても、なんにだってなれそうな気がする」

彼女が私の心の中で、そうつぶやいた。

 

 

窓の外はすっかり暗い。

明日から始まる新しい冒険のために、今日は早く寝ることにする。

 

 

-宇都宮編へつづく-

 

 

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この記事を書いた人

大石 蘭

大石 蘭  

1990年福岡県生まれ。東京大学教養学部・東京大学大学院修士過程修了。
少女文化と原宿が好き。大学在学中に雑誌『Spoon.』に掲載の自伝的短編エッセイ「そんなお洋服ばっかり着ていると、バカに見えるよ」が同年代の女子をはじめ、クリエイターの注目を集める。その後、雑誌・書籍などで本格的に執筆活動をはじめる。
2014年に初の著書『妄想娘、東大をめざす』(幻冬舎) を刊行。自身の大学受験エピソードを描いたコミックエッセイとして話題に。
2015年にフリーランス活動をスタートするとともに、結婚、出産。雑誌やWEBなどでエッセイ、イラストコラム、イラストレーションを執筆・制作しながら現在も活動中。一児の母。

ありきたりじゃない旅Guide

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