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メランコリック・メルヘン・ロード 〜那須編〜 vol.2

ステンドグラスに照らされる、乙女の祈りと小さな恋

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この連載は... 「かわいい」と「スイーツ」、そしてわが子を愛する1990年生まれの大石蘭が、新しいときめきと癒しを求めて飛び出しさまよう旅のエッセイ! いつか見た夢の景色、甘い魅惑のお菓子、誰も知らない私だけの秘密の場所……日常を抜け出して妄想を繰り広げれば、そこはもう小さな旅の入り口。

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◆藤城清治美術館〜那須ステンドグラス美術館

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劇場型美術館。

なんてわくわくする響き。

1924年生まれの影絵作家・藤城清治が、そんなコンセプトでつくった美術館が、この「藤城清治美術館」だという。

サファリパークとはうってかわってスタイリッシュな外観。おちゃめな猫やかえるやこびとたちのシルエットのオブジェが至るところにいて、門から美術館までの道案内をしてくれる。すでに楽しい予感……。お年寄りたちがおしゃべりしながらマイペースに行き交っても、誰も迷惑そうな顔をしない。ゆったりとした時間が流れている。

美術館の入り口は、ポストに乗った猫が向かい合う姿で描かれている赤と白の自動ドア。ここをくぐった時点でもう、物語のはじまりはじまり、って感じ。カフェスペースの椅子の背もたれは、木彫りのこびとの形をしていて、テーマパークのよう。

影絵ってもっと無機質な、白と黒の映像だと思っていた。こんなにかわいくて、カラフルで、ロマンチックだったんだ。

猫やこびとの目は、つぶらだけどギロッといたずらっぽくて、うちの子にとても似ている……。そう思うと、動物の絵を見ているだけで愛くるしくて涙が出そうになってきた。展示室に入ってすぐのところにあった、藤城清治が30歳のときに描いた「ブーちゃん」の原画は、猫のしぐさがけなげで愛おしくてたまらない。

そして、女の人の美しさ。

うつむき加減の人魚のたたずまいはさながら抒情画で、シンプルな線の中に、恋する女性の物思いと少しの色気、少女の純情さを感じさせる。

ふと、一枚の絵の前で足を止めて見入ってしまった。それは《小さな恋の物語》(2004年)という、大きな影絵。ちょうど同じタイトルの歌を、昨日から聴いていたところだったのだ。

ハットをかぶった少年と、ヴェールをかぶった少女は、大人じゃないけど花嫁と花婿みたい。向かい合うふたりを、タキシードを着たねこが支えている。ヴァイオリンを弾くこびと、少年のハットの上でキスすることり、チューリップとパンジー、てんとう虫とアゲハ蝶が、ふたりを祝福している。

結ばれるかなんてわからない、間違いだらけかもしれない小さな恋を、同じように小さなものたちが、こんなふうに応援してくれたなら……。

子どものころは見えたものが、大人になってすっかり見えなくなってしまったこと。「どこかで誰かが“妖精なんていない”って言うたびに、妖精がひとり死ぬんだ」っていうピーターパンの言葉が本当なら、どれだけ多くの妖精を殺して大人になったんだろう。真っ暗だった心の中のメルヘンの世界を、影絵がもう一度浮かび上がらせてくれる。

不意に「天井を見上げてごらん」というキャプションが現れ、顔を上げると、大きな木の上のこびとたちの影が、天井に映し出されている。ふしぎな動きが、本当に妖精みたい。階段には、猫の足あとの影がひとつずつぽつぽつと映る。もうすっかり小さな生きものたちの世界に入り込んでしまう。

なにげない日常にこそ、おとぎ話以上にすてきなものがあったのに、どうして今まで忘れていたんだろう。

 

美術館の建物を出ると離れにチャペルがあった。

《小さな恋のものがたり》のふたりによく似合う、結婚式のできるチャペル。

正面には動物たちが楽しそうな丸いステンドグラス。「ノアの箱船」のモチーフだろうか。向かって左には、それぞれの窓に月の満ち欠けと人魚が描かれた、ロマンチックな5枚のステンドグラス。向かって右には、太陽と馬と少年が描かれた5枚のステンドグラス。

きっと月と海は女のシンボルで、太陽と大地は男のシンボルなのだろう。そういえば椎名林檎もそんなことを歌っていた。線と色づかいの愛らしさが、そのほとばしる生命力をやさしく中和している。

外に出ると、じりじり焼き付けるように太陽が照ったかと思えば、ひんやりとした風が流れてくる。そこにもまた光と影があって、那須って影絵みたい。

いや、この世界そのものが、影絵のようなものなのかもしれない。

 

 

oishiran

 

やっぱり、チャペルという場所はほっとする。

小さいころから教会によく行っていたからかもしれないけれど、聖書のおしえとか、牧師の説教とか以前に、礼拝堂という場所に愛着を感じる。

十字架が好き。

ステンドグラスが好き。

マリア像が好き。

百合の花が好き。

讃美歌が好き。

そして……そうだ、きっと描かれたイエス・キリストのルックスも好きなんだな。

那須ステンドグラス美術館」で、またしてもチャペルに座っている私は、流れてくるアヴェ・マリアの歌声を聴きながら、聖人たちのステンドグラスを眺める。

イングリッシュガーデン風の庭園に囲まれたレンガづくりのこの建物は、美術館というより教会。英国文化とキリスト教文化がさらっとミックスされていて違和感がない。

きっとガーデンとチャペルって相性がいいんだ。

子どもたちが駆け回り、乙女が花を摘む若草色の庭。

ステンドグラスから差し込む光と、ほのかな灯りだけが照らす、木の椅子と大きな十字架。

どちらも似た効果をもっているから。

ゆるされている感じ。ゆるしという言葉が大げさなら、悩みを忘れること。

祈りが受け止められている感じ。祈りという言葉が大げさなら、未来への欲望、妄想。

 

併設のカフェテラスでとちおとめミルクを飲みながら、スイーツを食べに行く計画を立てていたら、気がせいてそのままスーツケースを置き忘れて、戻ったせいでバスを一本逃した。

結局、甘い欲には勝てないってこと。

 

 

-To Be Continued-

 

 

藤城清治美術館
〒325-0301 栃木県那須郡那須町湯本203
TEL:0287-74-2581
http://fujishiro-seiji-museum.jp/

◆那須ステンドグラス美術館
〒325-0302 栃木県那須郡那須町高久丙1790
TEL:0287-76-7111
http://stainedglass-museum.com/nasu/

今月の旅のMAP

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この記事を書いた人

大石 蘭

大石 蘭  

1990年福岡県生まれ。東京大学教養学部・東京大学大学院修士過程修了。
少女文化と原宿が好き。大学在学中に雑誌『Spoon.』に掲載の自伝的短編エッセイ「そんなお洋服ばっかり着ていると、バカに見えるよ」が同年代の女子をはじめ、クリエイターの注目を集める。その後、雑誌・書籍などで本格的に執筆活動をはじめる。
2014年に初の著書『妄想娘、東大をめざす』(幻冬舎) を刊行。自身の大学受験エピソードを描いたコミックエッセイとして話題に。
2015年にフリーランス活動をスタートするとともに、結婚、出産。雑誌やWEBなどでエッセイ、イラストコラム、イラストレーションを執筆・制作しながら現在も活動中。一児の母。

ありきたりじゃない旅Guide

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