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彼がニューヨークに旅出る理由 vol.3

第三章:ジョンとヨーコと男と女

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この連載は... 旅行には、物語がある。 彼にとって、ニューヨークへの旅はどんな物語があるのか。 物語を通じて、ニューヨークの情報をお届けします。

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ダイヤは立ち上がっていた。

立ち上がって大きな拍手を送るとともに、心からの賛辞を出演者に送っていた。ダイヤは、マンハッタンのタイムズスクエアから少し歩いた場所のアル・ハーシュフェルド劇場にいた。昨夜のブロードウェイミュージカル「ライオン・キング」に感動したダイヤは、その足で新しいミュージカルのチケットを購入しに向かった。「ライオン・キング」はブロードウェイの王道だとパンフレットに書いてあったので、ダイヤは一度映画を観たことがある「キンキー・ブーツ」を選んだ。ショーが始まるまで、ダイヤは一抹の不安を感じていた。「あまり面白くなかったらどうしよう、英語が難しすぎて内容が分からなかったらどうしよう」そんなことを不安に思っていたが、ショーが始まった途端に吹き飛んだ。もちろん、細かい英語表現は理解できなかった。しかし、大まかな話の流れは理解できたし、何よりショーのパワーが彼を圧倒した。そして、ダイヤにとって、周囲の観客の反応も新鮮だった。日本で演劇や映画を鑑賞するときは、あまり観客は声を出さないし、さらに言えば静寂が良しとされる風潮がある。しかし、ブロードウェイミュージカルにおいては違った。主人公が悲しむ場面で観客は一緒に悲しみ、主人公が喜ぶ場面では「フー!」と声を上げ、一緒に喜ぶ。まるで登場人物に自分自身を重ねて観ているようだと思った。思ったこと、感じたことをその場で吐き出すことの楽しさ・自分の感情をもっと素直に出して良いことを知ることができたのは、ダイヤにとって大きな収穫のように感じられた。

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トモミは立っていた。

トモミは、水曜日の23時頃、近所の公園のジャングルジムの頂上で仁王立ちをしていた。常軌を逸した行動であることはトモミ自身も自覚している。しかし、自覚した上でその行動をとることが彼女にとってある種のエクスタシーを感じてしまうのである。ダイヤは有給休暇を取得し、ニューヨークをひとりで旅行している。一方で、トモミは日本の下町の公園のジャングルジムの頂上で仁王立ちをしているのだ。場所・行動共に、かなりかけ離れたことをしていることにトモミは少し興奮を覚えた。人間はときに、大層ばかばかしいことをしたくなる生き物であり、トモミはその衝動に抗うことができない。そう、トモミはひどく酔っている。会社の飲み会で珍しく三次会までいた彼女は、同僚や先輩が飲み会の席で口にする「ダイヤくんはいまニューヨークらしいよ」「ダイヤはひとりでニューヨークに行くなんてすごいな」といった発言(ある意味では、ダイヤを神格化した発言と捉えることもできる)に対してほとほとウンザリしていたが、ウンザリしているにも関わらずほかの社員がダイヤのことをどう言っているのか気になって、その場にずっとい続けてしまう自分に対してもウンザリしていた。トモミは、自分の中で彼の旅を心から素晴らしいと思える時と、自分ができないことをいとも簡単にできることに嫉妬する時と、彼のインスタグラムを眺めるたびに色んな感情に襲われた。

 

ダイヤは眺めていた。

ダイヤは、ダコタ・ハウスの外観を眺めていた。ダコタ・ハウスは、マンハッタン区を南北に走るセントラル・パーク・ウェストと、東西に走る72丁目および73丁目の、計3本の道路に挟まれた角地に立地している。この建物といえば、ジョン・レノンが射殺された場所として知られている。ジョン・レノンという大スターが一般人の持つ拳銃によって殺された。ジョン・レノンの悲劇を憂うダイヤは、ダコタ・ハウスから歩いてセントラルパークに向かう途中、ビートルズの音楽を聴かずにはいられなかった。ダコタ・ハウスを目の前にしてセンチメンタルな気持ちになり、ビートルズを聴いた人はこれまで何人いたのだろう。そんなことを思いながら、「ストロベリーフィールズフォーエバー」を聴いた。

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ダイヤはビートルズが大好きで、特にいま聴いている「ストロベリーフィールズフォーエバー」が大好きなのである。そして、セントラルパーク内にはジョンレノンの記念に捧げられた造園された区画が存在する。地面に、「IMAGINE」と書かれた記念碑には多数の花が手向けられており、その近くのベンチでは路上ミュージシャンが「オールユーニードイズラブ」を歌っていた。ダイヤは、なんて素晴らしい場所なのだろうと感じるとともに、ただひとつ、そこは「ストロベリーフィールズフォーエバー」だろうと心の中で呟いた。

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この記事を書いた人

SHYボーイ

SHYボーイ  

オモシロを日々探究するボーイ。
寿司とピザ。映画と小説。

ありきたりじゃない旅Guide

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