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彼がニューヨークに旅出る理由 vol.1

第一章:出発、街並み

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この連載は... 旅行には、物語がある。 彼にとって、ニューヨークへの旅はどんな物語があるのか。 物語を通じて、ニューヨークの情報をお届けします。

彼がニューヨークに旅出る理由

ダイヤは歩いていた。

少し大きなキャリーケースを転がしながら、彼は空港を歩いていた。彼にとって、一人で空港にくるのは初めてのことだ。出発ロビーの中央には、巨大な電光掲示板があり、そこには世界中の国名と、航空会社の名前、搭乗ゲートの番号が書いてあった。

「違う飛行機を選ぶだけで、全然違う国に行けるんだよな」

ダイヤはふと、そう思った。そんなものなのかもしれない、人生なんて。巨大なボードに、今後の人生の行き先が書いてあって、指定された飛行機に搭乗する。飛行機を変えるだけで、向かう場所は簡単に変わる。簡単だって頭では分かっているのに、自分の中で何かの理由をつけて、難しいものに変換してしまう。簡単なことほど、決断するのに意外と時間がかかってしまうことがある。

彼がニューヨークに旅出る理由

 

ダイヤは戦っていた。

ニューヨークに向かう飛行機の中で、退屈と戦っていた。機内で出された缶ビールで、すっと眠りに落ちるかと思っていたが、彼に眠気が訪れることは無かった。初めて降り立つ地への興奮が、彼から眠気を奪っていくのか、それとも不安からなのか。一人旅の過酷さを、まさか機内で感じることになろうとは。ダイヤは、飛行機のモニター画面でしか観ることのないであろう、台湾のバラエティ番組を観て、13時間ほどをやり過ごした。無論、内容はほとんど理解できなかった。

 

トモミは悩んでいた。

時は夏季休暇真っただ中。場所は都内の超高級ホテル内にあるレストラン。女子友達数人と仲良く、ランチを楽しんでいるところだ。ビュッフェスタイルなので、好きな料理を好きなだけ楽しむことができる。トモミは、寿司職人が、握りたての寿司を提供してくれるブースの前で立ち止まった。ここにきて、寿司を何貫か頼んだところで、炭水化物でお腹を膨らましてしまい、ホテルの思うつぼではないか。いや、目の前で寿司職人が握ってくれたお寿司を味わうことができるなんて、なんて贅沢なんだろう。ん?待てよ。数多の寿司屋がそうではないか?寿司屋ってそもそも、目の前の寿司職人が握った寿司を、その場で味わうものだ。あぶない、あぶない。ホテルのビュッフェに寿司職人が立つという特別感に、あやうく騙され・・・

「ちょっと!トモミ!また、脳内会議?」

 

トモミは我に返った。

友人の静香の声で、我に返った。またもや、脳内会議を始めていたようだ。静香の話によると、数分間、寿司職人の前で無表情で直立不動のまま立ち尽くしていたそうだ。トモミは、ただただ恥ずかしかった。と、同時になんて自分は幸せなんだろうと感じた。世界には、食事にありつくだけでも大変な人々がいる中で、自分は目の前のお寿司を食べる食べないで悩むなんて。しかも、お寿司を食べないという選択をしたのだから。贅沢な悩みだ。幸せな悩みって、そのありがたさに感謝しつつ、どんどんした方が良い気がする。トモミはそう思った。どんどん、悩む。悩むことが幸せなのだから。そう思いながら、目の前のローストビーフをどう美味しく食べてやろうか悩みつつ、噛りついた。

 

ダイヤは武者震いした。

武者震いといえば良いのか分からないが、ダイヤは、未だかつてない感動を覚えていた。目の前に広がる、英字看板・英語のアナウンス・海外の人々・・・。そう、ジョン・F・ケネディ空港、つまりはニューヨークに到着したのである。日本を出発した日と同じ日にアメリカに着くというお得感に「時差すげえ」と思わず呟いていた。また、彼のテンションは収まることをしらなかった。日本の東京を出発し、13時間ほどでアメリカのニューヨークに到着するという技術の進歩に感謝するとともに、この時代に生まれて本当に良かったと心から思った。変に緊張した税関を通り抜け、空港の外に出ると、空港周辺の景色ですら溢れ出るニューヨーク感に、彼は興奮した。

彼がニューヨークに旅出る理由

 

ダイヤは困惑した。

ただ、困惑していた。意気揚々とイエローキャブに乗り込んだは良いが、運転手の圧倒的なパワーに困惑していた。おそらく、運転手の出身国はドミニカ共和国で、ニューヨークの街に出稼ぎに来ているらしいことは、ダイヤの稚拙な英語力でもなんとか理解することができた。ニューヨークは、様々な人種の人々が集い、共存する街なんだ。

「お前はどの国から来たんだ」
「日本の良いところはどこだ」
「ひとりで来たのはなぜだ」
「女は好きか(俺は大好きだぜ)」

・・・まるで機関銃のように放たれる質問に必死で食らいついているとふと、トモミのことが思い出された。理由はわからない。ただ、ズバズバと話しかけてくる感じが、トモミに似ていたからかもしれない。

彼がニューヨークに旅出る理由

タクシーから降り、ニューヨークの街並みを歩くと、焼けるような日差しを感じ、急いでサングラスをかけた。日本の紫外線より、力強いような、そんな印象を彼は受けた。ニューヨークの街並みは、ダイヤが思っているより「ニューヨーク」だった。世界中の何万という人々が観光に訪れ、中には期待外れだったと落胆する人もいるだろう。しかし、映画や海外ドラマで観たどのニューヨークよりも、彼がいま、その地で、その目で、目の当たりにしているニューヨークこそ、最も「ニューヨーク」だった。

彼がニューヨークに旅出る理由

百聞は一見にしかず、まさにその通りだと彼は思った。どれだけ情報をかき集めて、インターネット上の画像で旅行気分に浸れたとしても、やはり、自分の目で見て、視覚から喚起される想いや考え、気持ちも含めて全身で味わうことを「旅をする」というんだと、彼は思った。ダイヤは、これからニューヨークを旅することに興奮を抑えきれず、つい鼻歌を歌いながら予約しているホテルを目指して歩き出した。

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この記事を書いた人

SHYボーイ

SHYボーイ  

オモシロを日々探究するボーイ。
寿司とピザ。映画と小説。

ありきたりじゃない旅Guide

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